思念が奔逸中

情報発信の体裁で雑念のみ垂れ流します

皆、案外こっち側なんでしょ?だったら山内マリコの小説を読んで

先日から山内マリコ氏の小説を読んで、完全にファンになっています。

地方都市に住む女性目線の話の短編集「ここは退屈迎えに来て」でお名前は存じ上げていたのですが、何故か興味の範囲外、むしろ苦手なタイプの話かもと先入観があり手を出さずにいました。完全なる恋愛小説で、地方都市を離れた私とは正反対の属性の人々の話だと思い込んだのです。

ところが偶然こちらの記事を読んで、寧ろこっち側の人々についての話かもしれない、と思い俄然興味を持ちました。

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私が読んだのは、読んだ順に「さみしくなったら名前を呼んで」「かわいい結婚」「ここは退屈迎えに来て」です。

「かわいい結婚」は他2作と比較し、より軽妙なタッチでコミカルですらありながら、緩い絶望が続いていく事を示唆する様な読後感です。後の2作は、淡々と緩い絶望を描きつつも仄かな希望を感じさせるという、近しいテーマを扱いながらも逆のベクトルで展開していく印象でした。個人的には後者の作風が好きだったので、こちらについての感想を思いつくままに書いていきます。

 

 

◾️さみしくなったら名前を呼んで

さみしくなったら名前を呼んで (幻冬舎文庫)

さみしくなったら名前を呼んで (幻冬舎文庫)

 

 

一つだけ少し毛色の違う短編があるのを除いて、地方都市で生まれ育った女性が主人公という共通点があるものの、それぞれが独立した無関係の物語で長さもまちまち。主人公の立場や年代、容姿や性格もバラバラ。完全に自分と同一化出来そうな人物はいないけれど、それぞれが「地方都市生まれの女」という記号から離れて、1人の自我のある人間としてイキイキと立ち上ってきます。

会話文の女同士のちょっとした毒舌や、ふざけて粗雑な喋り方をしてみる感じが、過剰にならずとてもリアルです。

 

個人的にとても良かったのが「遊びの時間はすぐ終わる」です。この本の中では比較的分量があり読み応えがある話です。出身地を離れて都会に住んでいるという主人公が帰省し旧友と会うという流れを軸に、所々回想を挟みながら主人公の思考が描かれます。出身地を離れたという設定が私と同じだった上に、先日帰省した際に色々と思う事もあり一番印象に残りました。

特にこのフレーズ

なににしようかあれこれ考えた挙げ句、東京ばな奈に着地してしまった自分はなんてダサいんだと凹んだけど、それで正解だった。間違っても溜池山王まで行って、ツッカベッカライ・カヤヌマのクッキーなんて買わなくてよかった。ー中略ーどちらの世界とも、微妙にそりが合わないけど。わたしはその中間で、どっちつかずにぷらぷら浮遊している。

 

東京に住んでいないので、溜池山王まで行く事のハードルがイマイチ掴みきれないところはあるのだけれど、帰省する時に定番すぎるものを避ける気持ちが凄く分かる。私はこの話の主人公よりは少し「現在住んでいる場所」寄りの立ち位置です。どちらかというとそういう文化的な御作法が嫌いではなく、というより気の利いた会話や振る舞いができるタイプではないので、せめて事前準備出来る手土産くらい気を利かせないと、などと思ってしまいます。そして溜池山王的な場所に赴いたり並んでまで購入するという気力が無い事を棚に上げ、何食わぬ顔をして良さげなものをサラッと購入するフェーズに入りたいものです。

それでも今住んでいる土地柄に対する違和感やアウェー感を持つ事もあります。このそれぞれの土地に対する違和感を「微妙にそりが合わない」と表現したのがとてもしっくり来ました。

特に生まれ育った土地に対するそれについて、先日私は愛国心という単語まで持ち出して考えたのに、「微妙にそりが合わない」その一言で鮮やかに描き切ってしまったのが、納得感がありすぎて清々しい気持ちになりました。

malily7.hatenablog.com

 

 

◾️ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)

 

 

こちらは8編の物語で構成され、それぞれの主人公の視点から別の話が展開しますが、全ての物語に「椎名」という男性が登場し、1冊を通してその人物像が浮かび上がってくるようになっています。

最初の物語は一度東京に出て30歳で故郷に戻ってきたライターの女性が主人公。そこからだんだん時代を遡り、最後の物語では主人公が16歳となります。最後まで面白く読みましたが、共感する部分が多かったのは最初の話くらいでした。だんだん登場人物達の年齢が下がってくるにつれ自分の記憶と離れて行くのと、地方都市に居続けている、未だ居るという設定が少し自分と違う属性のように感じられました。

各話の退屈に塗れた主人公達と、それと対比するかのように異なる属性として描かれる、椎名という存在。あぁこういう人クラスやコミュニティに1人はいるいる、と思うのですが、これを地方で幅を利かせている所謂マイルドヤンキーの象徴として捉えるのは少し違うような気がします。何というか典型的な地方都市のあんちゃんではあるようなのですが、こういう人をある種の属性に当てはめながらも多層的に見せるという物語は初めて読んだかも知れません。まあ私の中のマイルドヤンキーのイメージが偏見だらけというのもありそうですが。

それはそうと、この小説は今秋映画が公開されるそうです。(おそらく小説の中の何編かを組み合わせた感じになって、より椎名にフォーカスが当たるような作りになるのでは、と予想しています)。

主要キャストが橋本愛さん、門脇麦さん、成田凌さんという情報は得た上で小説を読みました。冒頭の話のライター女性が橋本愛さんという配役との事ですが、橋本愛さんにアラサーのイメージを持っていなかったので、小説の雰囲気とちょっと異なる印象を受けました。

最初の話からそんな感じなので、あまり映画の配役は意識せずに読めたのですが、読み進むうちに、どんどん椎名が成田凌さんっぽい感じになってそれ以外の配役が考えられなくなってきました。別に成田凌さんについて詳しい訳でもなんでも無いのですが、これは観る前から大正解の予感がします。初めて縦列駐車に成功して自慢してくる成田凌とか最高かよ。

filmaga.filmarks.com

◾️サブカルガジェットに関して

取り上げている2作ともに共通するのが、サブカルガジェットの登場です。時に自然に、時に主人公達と地元のマジョリティの意識上の文化的な断絶を表すような描かれ方をしています。

色々な分野のカルチャーが取り入れられているのですが、比較的音楽についてが多い印象があります。山内さんはこういう地方都市小説を書くぐらいなので、文化全般に造形が深いと思うのですが、小説に登場してくるアーティストは、数年前くらいの、日本の雑誌に載るレベルの洋楽ロックを聴いている大学生のツイッターのプロフィールにスラッシュ付きで羅列されているようなラインナップ(つまり私)で非常に良い塩梅です。

「さみしくなったら名前を呼んで」では新人バンドを律儀にチェックする彼氏について

 

その時々でいろんな答えが返ってきたけれど、なんか釈然としなかった。だってなんか、新人に飛びついて次々消費して、人の初期衝動を使い捨ててるみたいじゃん。(ボーイフレンドのナンバーワン)

 

と述べる部分があるけれど、「ここは退屈迎えに来て」では元々メンバーが裕福だったストロークスのCDを勧められて

 

あたしはアメリカやイギリスの、夢も希望もないド田舎出身のバンドが好きだ。打ち棄てられたような町で育った、貧乏で誰にも認められたことのない若い男の子が集まって作った、初期衝動のつまったデビュー作が好きだ。(君がどこにも行けないのは車持ってないから)

 

と言ってるの、最高にエモいなと思います。

 

 

 

冒頭でご紹介した記事や小説の内容を通して、山内さんは「故郷を離れる原動力は、好奇心や向上心」というように捉えられているように見受けられますが、実は私自身が故郷を離れる際はあまりそういった意識がありませんでした。故郷以外の土地に私が採りたい選択肢があるから、そして、(別に嫌いではないけど)ここはずっと居る場所ではないように思うから、という些かエクソダスみのある理由でした。しかし一度故郷を離れ相対的な都会へ出てしまうと、やはり故郷は退屈かも知れないという考えが浮かんでいます。

私は故郷よりも田舎レベルの高い土地には住めないと思うのだけれど、故郷であれば今の様に気軽にライブに行けなくても、百貨店を使い分ける余地が無くても、与えられた条件の中で日常を過ごしていくのではないかという気もしています。気の利いたカントリーサイド感のない地方都市の画一化された風景は小説の中では「ファスト風土」などと揶揄されていますが、大企業の資本投下と物流に支えられ、ある一定レベルまで都会との文化度が同期されている事は、地方都市に住む人々の生命線のようにも思われてなりません。

 

山内さんの作品は、比較的軽く読みやすい文体ですが、テーマもどちらかというと限定されていて、興味の範囲外にある人が読んでも全然刺さらない可能性はあります。(正直、東京で生まれ育った人や完全マジョリティタイプが登場人物を悪く言ったり共感出来ないなどと言っていても、所詮持てる者が持たざる者の事なんて分かるかよなどと思ってしまうと思う。)

とは言え私は人々を分断したい訳ではありません。周囲への違和感、行き詰まり感や挫折、残念な所も多々ある街へのそこはかとない愛着などは、生まれ育った場所や属性に拘らず共通するのではないでしょうか。

是非こっち側だと思う方、そしてそうでない側の方も一度読まれてはいかがかなと思います。

 

反骨とパラノイア

www.yutsuba-rock.net

この記事を拝読し、「そうは言ってもドロスの曲は英詞の方が好きだし、KABUTOはイントロからして格好良いやろ」などと思いながら入眠したら、川上洋平氏と羊羹を食べる夢を見たので、何らか還元しなければならないと思い筆を執っています。

とはいえ、[ALEXANDROS]の日本語の曲が良くないと言っている訳では無いですし、遊津場さんの記事に異議を唱えるつもりもありません。寧ろ、邦楽ロックを聴いている人がどういう動機で聴いているのか興味深く、音楽的な考察としても勉強になりました。

上記の記事の要旨をざっくりまとめると

・邦楽は歌詞一点突破型が多い

・洋楽は音自体を楽しむ作りになる傾向がある

・邦楽の進化が止まっている?w-inds.、ヤバTへの言及

・優劣の問題ではなくその音楽との出会い方の問題

との事です。(間違っていたらご指摘下さいませ)

 

この記事はそれを受け、私なりに何故洋楽を聴くのか、そして邦楽ロックを聴いてみるつもりがなんだかマニアックな所に辿り着いてしまった感があるので、その辺りの個人的な考察を記すものとなります。多分何かいけすかない感じの文章になると思うので、洋楽を聴く人や私と同じアーティストが好きな人が同じ考えではないと言うことは最初に申し添えて置きます。あと英語が分かる人は完全に当てはまらないように思います。

などと沢山エクスキューズを言い置いた所で行ってみます。

 

 

①そもそも洋楽に耳が慣れている

元々古い洋楽ロックを聴く親のいる家庭で育ったのと、邦楽ロックを経由せず、中学生時分から洋楽に嵌り出したため、耳馴染みがあるというのは大きな要素かも知れません。音楽的素養はないので、洋楽っぽい特徴といえば裏拍が多いとか、割と歪んだ音が多い気がする…?くらいしか思いつかない。のでいつも通り歌詞の話をすると

・英詞は日本語の詞に比べ、ラップじゃなくても韻を踏む率が高い

・日本語は母音と子音がほぼ一対なのに対し、英語は一音節に複数子音が詰まっているので、間延びして聴こえにくい

・上記も踏まえ、意味に引っ張られず言語を楽器のように捉えて聴くことがしやすい

この辺りが歌詞的な観点からの耳馴染みといえそうです。

 

②歌詞の内容について

所謂いい曲、つまり、爽やかで元気が出るとか、心温まるとか、毒気のない切なさなどを醸し出す詞を、便宜上「共感前提型」と呼ぶことにします。

私も邦楽を聴くようになって、これまでなんとなく聴いていた曲も、変わった表現の切り口や叙情的な美しさなど良い詩があると思うようになりました(当たり前だけど皆が皆「空を見上げ」たり「君の名を呼ん」だりしてる訳じゃないね!)※1。

しかし個人的な事ですが、私はどうにも共感前提型の曲ばかり聴いていると疲れてしまうようで※2 普段聴く曲の3割程度が丁度いいかなと思っています。ところが、実際の数は別としてですが、やはり共感前提型はリリースの仕方やマスな媒体への露出によって発見しやすい所にあるため、そうでない曲を探す方が労力がかかります。

そうでない曲というのは色々とあります。たとえば、反骨精神※3 があったり皮肉や諧謔を帯びている曲は、誰か/何かに与しないという共感とは異なる立ち位置となります。あるいは抽象的な内容だったり、テーマや思想に独自性があるものが当てはまります。共感前提型の作詞者が本当に思って書いてないとは全く思っていませんが、「皆共感してくれるはず」という曲(で共感できずに疎外される)より「共感されなくても思ってる事を書く」の方が潔くて、共感できたときに嬉しい気がします。

そうなると、気分でない曲を聴くよりは、歌詞を瞬時に知覚できない英詞の曲を聴くようになります。日本語詞だと好みじゃない方向性や陳腐な表現にげんなりしやすいですが、外国語であればよっぽど反感を持つ内容で無い限り許容できます。たとえLimp Bizkitがピークを過ぎてから本国である種の層からアホの聴く曲として蛇蝎のように嫌われようが※4 、音さえ良ければ私には関係がありません。

というか、Limp Bizkitの曲が日本語詞だとしたら聴くに耐えないと思います。身勝手な事に、過激だったり下品な言葉を音声で聴くのは、母国語より外国語の方が心理的なハードルが下がるようです。

あと、洋楽は割とパラノイアについて歌いがちです。これはインテリ系も悪ぶってる系もどちらにも当てはまります。パラノイアが英語でどのくらい日常的に使われるのかは分かりませんが、日本語詞では中々パラノイアの話はしないし、実際にごりごりパラノイアックな歌詞は聴くに耐えないかも知れません。

 

③そうはいっても筆者は最近(限られた範囲の)邦楽ばかり聴いている件

この辺りは私が活字マニア且つ言語感覚フェチ※5 なのが影響しています。

活字として読んで興味深く思考強度を感じる歌詞、素敵に表現するというより感覚に忠実に表現した結果の意外性ある単語の選択や並び。こう言った歌詞は結果的に、情報量が多くなり字数が詰まったり、物語性を省いた分韻を踏んでいたり、①の要素に近づいていないこともない気がします。あとよくよく読んでみるとパラノイアの話をしてくれている事があります。

 

④新しい音楽は誰に紹介してもらったら良い?

冒頭でご紹介した遊津場さんの記事では、どんな音楽が好きになるかは出会い方(≒誰に教えてもらったか)による、との事ですが、これは本当にそうだと思います。

よく考えたら私は中学の時もう少しKICK THE CAN CREWに嵌っていても良かったように思いますが、ウザい先輩が歌っていたせいか言うほど嵌りませんでした。

今の時代、人に紹介されなくても色々な媒体で音楽を探せるし、自分の耳で好き嫌いを決められる時代ではあります。音楽記事や動画サイト、アーティスト同士のSNSでの繋がり、実際聴いたライブで探すのは楽しいですが、その中で如何に効率よく自分好みの新しい音楽に出会えるか。それは自分の好きなアーティストからの紹介のような気がします。

そもそも自分の好きな音楽を提供しているアーティストですから好みの傾向が似ている可能性は高いです。プロのアーティストが圧倒的に知識や守備範囲が広い事を割り引いても、どんな趣味か分からない素人の知人よりは打率が高そうです。

だってw-inds.が居なかったらLimp Bizkitを聴いていない※6 し、[ALEXANDROS]が英詞で歌っていなかったら邦楽に興味を持っていないから!

 

そうです。奇しくも私に、洋楽・邦楽という両方の「分野」に興味を持たせた人々の名前が同じ記事に出ていたので書いてみました。やっぱり音楽業者の影響力、プロの力半端ないですね。

 

※1 クソ餓鬼だったのでAqua Timezの「辛い時辛い時言えたらいいのになぁ」という歌詞を聴いて「その辛ぇという歌詞を書けよ」と思っていたのですが、流石に今は一応意味がわかります。

※2 感情移入し続けたり同調を求められ続けるとしんどくなります。あと単純に心が汚い。割といつでも権力闘争の小説を読みたい。

※3 反骨精神があって爽やかになれる曲に「俺はロックスターになってやる」系があります。抽象度の高い歌詞にもその傾向がありますが、私自身の人生と「ロックスターになる事」とはこれまでもこれからも無関係なので、当事者意識を持たず軽やかな気持ちで、純粋に曲を楽しみ応援することが出来ます。(なんだかBL漫画を嗜む女性の一意見みたいな言い方ですが構造としては同じだと思います)。

※4 日本でいうと一時期評価を落とした時のORANGE RANGEに近しいのかもしれませんが、アメリカの事なのでもっと落差が激しそうです。

※5 言葉本来の意味だと「眼鏡フェチ」は物だから正しく、「脚フェチ」は本人そのものだから誤用という事になりますが、言語感覚は人の器官から発して本人を離れて存在するのでギリギリ正当だと思います。

※6 中学生の時のクラスでジャニーズではなくビジョンファクトリー系のアイドルが流行った時期がありました。Limp Bizkitについてはラジオで紹介されていたと思うのですが、直後に洋楽に入れ込みだしほぼ興味を失ったので、こういう事を恩知らずというのかも知れません。

お盆読書

普段なかなか読書の時間が取れない為、帰省のまとまって時間が取れる際に読むようにしています。とはいえたくさん本を持ち歩くのも大変で、実家にあるものを読む結果時代小説に偏りがちではあります。

という訳で、今年のお盆期間に読んだ3冊をレビュー!

 

 

川あかり (双葉文庫)

川あかり (双葉文庫)

 

 

葉室さんの訃報の後に初めて読む作品。しみじみとした人情ものらしさもありながら、陰謀や人の嫌な面もしっかり書かれていて、軽すぎない読み応えがあります。

 

 

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

 

 高田さんの小説は初めて読みます。タイトルがシリーズ化された所謂時代小説らしくて渋い。「みをつくし料理帖」と同じ作者ですがこういったタイトルのものもあるんですね。正直千鳥ノブの「イカ2貫!」のツッコミが頭を離れなかった。

銀二貫が物語の始まりであり、物語の要所要所でこの金額が出てきます。銀二貫の遣い道、もちろん(当初の予定・番頭もこだわったように)神仏に寄進でも良いんだけど、毎回凄く効いています。私も銀二貫みたいな大金は無理でも、日々生きたお金の遣い方をしたいなぁ。

正直結末は予定調和ですがそこを外されても困る気がします。かといって全員が大団円という訳でもなく、時が流れるにつれて人間関係も入れ替わり立ち替わり変化があるのがリアルです。

 

 

 

短編集だし軽めに読みたいと思って手に取った本。夏だし怪談でもという思い付きでしたがとても良かった。ちょうどお盆の時期に合う話だったり、複数話に戦争のエピソードが入っていたり、とてもタイムリーで感慨深く読みました。不気味で空恐ろしい話もあるけれどあまりドロドロとした因縁話はなく、ホラーというより幽霊譚、といった印象。最後に収録された対談を読むと、浅田次郎さんの実体験を下敷きにした話もあるらしく、元々私は浅田次郎さんは職業作家として作品を量産しているイメージがあったので意外で興味深かったです。

あまりにも予想外な事が起きた時に生じる破壊衝動のやり過ごし方

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たまには気の赴くまま文章を暴走させてみる。

 

黄色は特別好きな色ではないけれど、好きな種類の黄色がある。レモンイエローとライムグリーンの中間というか、有り体に言ってブラックリモーネのパッケージに使われてるあの黄色なんだけど伝わらないだろうし、色の名前でいうならば鶸色が近い気もするけれどやはりしっくりこない。おそらく最も近いのが大阪メトロの長堀鶴見緑地線のカラーであろうかと思う。とにかくその色の服を百貨店で購入した。

この事はその後の展開に何の因果関係もないのだけれど、なんとなく起点となった出来事のような気がしたのでここから始める。

 

百貨店で買ったから問題ないだろうとその服を着て出社した朝、後輩のミスが発覚した。ミスというほどおおごとではなかったかも知れないし、完全に自意識過剰かも知れないけれど、その日1日神妙な顔をしなければいけない場面でこの服は説得力があるのだろうかと気になって仕方がなかった。そしてこの件を皮切りとしたように、後輩のフォローや突発的な紛糾への対処など心が休まらない日々が続いた。勿論それは何らかのツケが回ってきた事態でもあり、そうでなくても私の仕事なわけだけれど。

 

そういった経緯で何となくケチがついてしまったような服だが、休日に着用し鶴見緑地線沿線で楽しい思い出に塗り替える事に成功した。(その間に数時間預けて直してもらうつもりの時計がメーカー預かりとなり装着していきたい用事に間に合わなさそうと判明したり、普通の飲み物だと思ったらシャーベット付きでラッキーだった日があったが無視する)

 

本題はその翌日である。件の後輩が自発的に今後の対策をまとめた資料を作成しメールで送ってきていた。ちょっと感動した。殊勝な心掛けだし、メール文面もHINOMARU騒動の時の野田洋次郎ばりに理路整然とし且つ適度にエモかった。早速添付の資料を開いてみると、絵文字やネットスラングを多用した2ちゃんねるのようなノリの文面になっていた。

 

衝撃を受け、一瞬何が起こったか分からなかった。

 

不思議と全く怒りは湧かず、呆れたわけでもなかった。ビジネス文書ではほぼ見かけない太字ポップ体の圧と、メールと資料の高低差に一瞬思考が停止した。我に返ったところで頭の中には疑問符しか湧かず、混乱の極みでしかなかった。他人様の表現を借用するのであれば、積極的に麻痺していきたいし、ぎゃん、などと言って失神でもしたかった。ゆとりがゆとりであるが故ではなく、さとり世代にカウンターを食らった形である。

この様に実際のところ大して害のない出来事であっても余りに意外性のある展開に出くわすと、人間は感情の処理が追いつかず謎の破壊衝動に襲われるものだ(主語が大きいな)。とりあえずその辺の机とか叩いたり、「イィイ゛ー」などと唸りたくなる。しかし現実社会に生きている私は、せめて正気を保つ為に自分の太腿あたりを叩くくらいしか出来ない。

 

この感情どうしてくれよう、添付を開いた途端、世代間だか価値観だかのギャップに殴りつけられたのだから、今度会ったら緩めの肩パンくらいしても罰は当たらないのではないかとすら思う。寧ろ第三者でいいから緩めの肩パンしたい(誰に対してでも肩パンする事に付随して生じる意味合いなどを考えたら面倒なので止しておくけれど)。

 

などという益体も無い事を考え出したので、ブラックリモーネでも飲んで落ち着こうとコンビニに行ったら「でからあげクンレッドスーパー」が新発売されていたので問答無用で購入した。

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パッケージにcautionと書いてある割には全くつらくなかったけれど一応激辛を標榜するだけの食べ応えがあって美味しかった。どうでも良いけれどこの国産地鶏のマーク上手いこと出来てるよね。

からいものに関する過去記事はこちら

 

malily7.hatenablog.com

 

malily7.hatenablog.com

 

食べ終えたら先程の破壊衝動は霧散していた。多少胃に負担をかける事で何かを破壊する事を回避できたのかも知れないが、そもそもからい食べ物は何かを抑えつける効果があるように思う。

 

落ち着いて考えてみれば、あのポップ過ぎる文体もセルフコントロールの一環なのかも知れない。仕事のチェック項目の確認なんてそれほど楽しい業務では無いだろうし、敢えて自分のモチベーションを保つ為にコミカルな要素や好きな物などを使って鼓舞することは大いにあり得る。それこそ私がからいものを食べて精神のバランスを整えたり、好きな服を着て行く様に。

それに彼女もこんな鶴見緑地線色の服を着て出社してきた女によもや怒られるとは思っていないに違いない。

 

とはいえ、私にはこの2ちゃんねる文体の資料を読んで内容を検討するという作業が残されている。これがなかなか難しい。文体とフォントのノリが完全に一致している反面、そのノリと書いてある内容及び作業に求められる心の持ち様が乖離しすぎて集中力が削がれるのだ。こういう時のライフハックはからいものでは無い様な気がする。誰かこのシチュエーションでやる気が出る方法があれば教えてほしい。

「そしてミランダを殺す」は叙述トリックなのか

海外の小説はあまり読まないのですがサスペンス系はたまに読みます。

久し振りに読んでみたのでざっくりとした感想を。

ストーリーの内容は極力記載しませんが、記事タイトル通り叙述トリック云々の話をするので未読の方はご注意下さい。おそらくヒント程度は出てきます。

読んだ本はこちら

 

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

 

 

 

 

表題の件、帯に「この展開、予想出来るはずがない!」とあったので叙述トリックものだと思い込んだけれど、別に叙述トリックとは書いてない。でも確かに予想はしなかった展開だったかも。

この小説は章の名前が人名になっており、冠されている人物の視点から語られていきます。一冊通してトータル4名の視点が入れ替わり立ち替わりする、という構造になっています。そして一冊で一つのストーリーですが、3部に分かれていて、部ごとに話の様相が変わっていきます。

叙述トリックというと、読者を騙す事を目的とした小説で、物語の終盤に種明かしがされるというイメージがあります。そういう狭義の意味でいうと本作は叙述トリックではありません。寧ろ帯にあった予想出来ない展開(=筋立て)が、部が切り替わる中盤にある、といった印象です。しかしよく考えてみると、単純に話の筋が想定外の方向に行くというだけでなく、その展開に絡めてある事実が判明するといった叙述トリックが使われています。手法としては比較的ありがちな気もしますが、海外っぽくてなるほどという感じでした。その「ある事実」を終盤の種明かしにするのではなく、中盤以降のストーリーに活かしていったパターンですね。

 

以下雑感です。

・主人公リリーのした事が露呈する綻びとして作用するのでは?と予想をしていた要素があったのですが、その話はずっと出て来なかったため回収しないんだなと思っていたらまさかのオチに持ってくる流れでした。

・犯罪を冷徹に遂行する女主人公が出てくる海外小説というと「その女、アレックス」がありますが、そこまでの悲壮感やヒリヒリ感はありません。淡々としています。そもそも「その女、アレックス」は読み始めると続きが気になって一気に読んでしまいますが、かなりエグくて人にはお勧めしづらいところがあります(私はフィクションであれば何でもいいし、作者と小説は切り離せるタイプですが、もしこの作者が平凡で幸せな家庭を築いていながらこんな小説書いたとかだったら何か嫌だなとすら思いました)。「そしてミランダを殺す」はそこまでの忌避感がなく、この分野の小説が好きな人には問題なくお勧め出来ます。

・登場人物の顔立ちや体型、服装などの見た目の描写が豊富で、映像が眼に浮かぶような文章。

・ふとウィノナ・ライダー、ヴァンパイア・ウィークエンドといった固有名詞が出て来ると急に同時代性が意識に登るけれど、この話が具体的に西暦何年の話なのかはよく分からない。

・リリーはサイコパスもしくはソシオパスという説が解説にもあり、レビューなどにも散見されます。確かに冷静さや機敏な行動力、ある種の良心の欠如はあるものの、犯罪への動機などは割とナイーブというかセンチメンタルな印象を受け、従来のサイコキラーのイメージからは外れていました。しかし読み返してみると、相手に利するような考えや行動を起こしていても、そこに真の同情や共感は無くあくまで自分本位な思考だと気付きました。本筋とあまり関係ない所でいうと、「無関係の第三者に人の死に際を見せるのは不当だ」というような部分があるのですが、「可哀想」「申し訳ない」ではなくて「不当」というのが中々だなと思います。ここで「その第三者との関係が今後ギクシャクすると色々面倒だから」と書かない辺りがさりげない描写だなと思います。あとは、衝動を抑えられないのか意外と軽率。

サイコパスであってもそうでなくても、相手の心なんて分からないし、結局は自分の主観で生きるしかない訳ですから、自分の・相手の感情が真の共感かどうか、衝動か計画かどうかなどはあまり問題ではない気もしてきます。

サイコパスは社交的で自信に溢れ、表面上魅力的だとされていますが、リリーはどうなのでしょうか。そこまで自我の揺るぎなさは感じますが社交的で自信家のイメージはありません。しかし、反対に読者がリリーの心を覗いている状態でありながら、嫌悪感を抱かないどころかちょっと応援をしたくなる感じは、ある意味本当に魅力的な人物という事なのかもしれません。

 

独断と偏見でウェディング用コンピレーションアルバムの曲順を考える

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ここ数ヶ月で友人知人の結婚ラッシュがあったので、ウェディング用アルバムの曲順を考える企画という名の個人的な遊び※1 をしました。個々のお祝いは行ったor行う予定なのでひっそりこちらで発表します。

 

設定

・収録曲数はアルバムでスタンダードな12曲。

・個人的なお祝いの集まりでBGM的に流すという想定。

 

選曲の方針

・失恋はもちろんネガティブな歌詞の曲はNG。反対に恋愛や結婚がテーマでなくてもポジティブな歌詞であれば可。

・会の進行を邪魔しないミディアムテンポの明るい曲調をベースに採用。ただしそればかりは飽きるので箸休め的にブチ上がる曲を入れても良い。

・一般知名度などは気にせず筆者が好きな曲、もしくは好ましいと思う曲を選ぶ。

 

このようにルールを設けてみたものの、いつもワルそうな曲やダウナーな曲ばかり聴いている私。無い知恵を絞り出したため基本的に当ブログの過去記事に出てきた方々を中心に進めてまいります。

 

01 YOUにBIRTHDAY    the twenties

 

多幸感溢れる音且つバースデイソングでありながらラブソング寄り、最後まで聴くとブライダル用でも遜色ないのではという歌詞※2 なので、どこかに入れようとは思っていましたが、イントロのリードトラック感が強いので(収録アルバムでも一曲目)ここに配置しました。やはりバースデイソングなのでチャラくなく聴く人を選ばない点がテーマに沿っていて良いです。

 

palm

palm

 

 

 

 

02 I Won't Let You Down   OK GO

 

この流れでさらに明るくポップな曲調へ。動画が斬新で楽しいというOK GOのパブリックイメージもあるので最適(?)。歌詞は寓意的というかちょっと一歩退いた感のあるメロから同じフレーズを連呼するサビへ、という洋楽のラブソングにありがちなパターンだと思いましたが、そう感じるのは私が歌詞カードを読んでいるからだと思います。


OK Go - I Won't Let You Down - Official Video

 

 

03 Lovers   sumika

 

バンド名が「スミカ」=棲家、ロゴがハウスメーカーみたいで可愛いという理由で入れています。比較的登場人物のスタンスが色濃く出ている歌詞なのでこの企画(という名の遊び)の設定上イメージに合わないおふたりが出てくる可能性※3 がありますが、完全なるウェディングソングだし少しは流行りを取り入れてみたかったので選曲しました。


sumika / Lovers【Music Video】

 

 

04 N.E.O.   CHAI

 

ミディアムテンポが続きそろそろブチ上がりたかった、という理由で配置。テーマには沿っていないですがポジティブ枠※4 です。可愛いから入れました。以上。


CHAI『N.E.O.』Official Music Video

 

 

05   狩りから稲作へ   レキシ

 

実際に出席した結婚式で流れていました。タイトルから一見ネタに走っているようですが(というか歴史ネタな訳ですが)、縄文から弥生への生活形態の変化を、結婚などに伴う現代の人間の関係性になぞらえた歌詞です。


レキシ 狩りから稲作へ

 

 

06 i want u to love me   [Alexandros]

 

完全に当ブログの全然関係ない過去記事の流れに影響を受けたアーティストの選定となりました。

 

malily7.hatenablog.com

 

ドラマ「女くどき飯 season2」のテーマソングです。[Alexandros]は色々な曲調の作品がありますが、このドラマとタイアップした曲は可愛らしい印象です。season1の曲は略奪愛の曲だったのと、season2でドラマ自体が素敵な感じに終わったという理由でこちらの曲を。

当該曲は1:05時点から


[Alexandros]  New Album「EXIST!」Teaser-01

 

 

07 As Long As I Got You   Lily Allen

 

曲調と歌声、Lily Allen姐さんの曲はめっちゃハマるだろうなと思いつつ、毒を吐きがち(下ネタも辞さない)な歌詞が多い印象なので、合ってる曲あるかなと振り返ってみましたが、ありましたよ結婚生活の曲! Lily Allen的なリアルさがありながらとても幸せな曲です。


Lily Allen - As Long As I Got You at Glastonbury 2014

 

 

 

08 Club Foot   Kasabian 

 

そろそろブチ上がりたかった(2回目)。ほとんど観てないけどこの前までW杯※5 をやっていた影響ですね。きっと私の周りの結婚する友人達も観ていたはず。サビは「お前が(選手として)必要だって言ってるじゃん」みたいなフレーズがありますが括弧内は歌詞にないのでラブソングに聴こえないこともないです。


Kasabian Club Foot Live Jools Holland 2006 HQ with lyrics

 

 

09 大安ナイト   八十八ヶ所巡礼

 

ブチ上がった流れで強めの曲をもう一曲。完全に筆者の好みで設定をガン無視しているのではと思われるかと思いますがそんな事はありません。八十八ヶ所巡礼随一、捻りなく明るい曲なのではと思っています。洋楽が続いたので「ハレの日」「目出度さ」という和のアプローチからの祝福ソングを、というのと、歌詞の中でやはり飲酒をしているので後半のこの順に配置しました。

 

日本

日本

 

 

 

10 Kids   MGMT

 

このタイトルの曲を入れるのはもしかしたらウメハラに当たるのではと一瞬コンプラ警察的※6 な考えが過ぎりましたが、そんな事は置いておいてこのファミリー感と多幸感を推したい。披露宴の後半、おふたりの生い立ちスライドショー的な位置付けです。あと単純にこの前結婚した友人がライブに行っていたという理由で入れてみました。


MGMT - Kids at Glastonbury 2014

 

 

11 Butterfly   木村カエラ

 

設定上、会の終盤で何かイベントが有る時に備え、ここから2曲は定番曲となります。この曲はカエラさんが結婚する友人に贈った曲との事なので、この記事の企画上もピッタリです。


木村カエラ「Butterfly」

 

 

12 愛をこめて花束を   Superfly

 

引き続き定番曲です。カエラさんも越智さんも幸せなご結婚をされたというイメージがありますね。ラストは壮大な感じで締めくくりたくこちらを最後に配置。


Superfly - 愛をこめて花束を

 

感想

もう少し洋楽が入るかと思いましたが12曲中4曲と少なめでした。自分の匙加減ではあるのですが、それでも分かりやすい洋楽のハッピーソングがパッと思いつかない。趣味に偏りがあるせいか、そもそも歌詞を聴いてないのか。そして私の洋楽知識が2013、4年くらいからアップデートされていないのが分かります。

女性アーティストが少ないのは予想通り※7 でしたが、全体的に男女の視点の偏り※8 は少ないかなと思います。そもそも全然関係ない曲が散見されるので余り問題ではないのかも知れません。音楽の種類としては絶対的に偏りがあると思うのですが、ハッピーな曲を自分がちゃんと12曲知ってるという事が分かって良かったです。

あー楽しかった!!!

 

※0 謎視点からの選定でしたので失礼な物言いがあれば申し訳ありません。個人的な遊びなのでご容赦頂けますと幸いです

※1 主に営業車の中で暇つぶしに考えました

※2 おふたりの内のどちらかの誕生日に入籍、というパターンの知人が居たなと思い出しつつ、この曲は軽度酩酊くらいでフワッと聴くのが一番良い聴き方だと思っています

※3 この辺までは真面目に考えていたのですが、その後の展開を考慮するとこの言い方はフェアではない気もします。「設定上、会の主役のイメージと齟齬がない=誰かを除外しない」というのが単純に私好みの思考というだけだと思います

※4 ポジティブ枠というかエンパワメント系の曲が好きです。それだけで全然他意はありません。容姿に関する曲は色々邪推を生みそうな気もしますが、「従来カワイイ」も「ネオカワイイ」の中に含まれるという事は一応申し添えさせて頂きます

※5 サッカーアンセムとして有名ですが「プラハの春」に関する曲との事

※6 親子の歌詞と思わせて環境問題の歌詞だという解釈もあるようです。公式MVが怖いので貼りませんでした。サイケ系の曲は得てして意味深だったり不気味要素があったりするので割り切って曲調で選んでいます

※7 女性アーティストを聴くことが少ないのですが、女性だから苦手というよりはたまたま積極的に聴いているアーティストの数が限られているという感じです

※8 歌詞の便宜上「僕」「私」といった男女で使い分けがちな一人称はありますが、それも絶対的なものではないですし、なんならおふたりが必ずしも男女である必要もないのかなと思います

 

原作ファンが出来るだけ核心に触れずに 映画「パンク侍、斬られて候」の感想を述べる

www.punksamurai.jp

先日、映画「パンク侍、斬られて候」を観て参りました。原作の同名小説を読んで原作者町田康のファンになった私は、映画化されると聞いたと同時に観に行く事を決意していました。しかも主演の綾野剛を始めキャストが豪華。そのキャストやスタッフの原作へのリスペクト溢れるコメント。公開されたビジュアルも好きな感じ。映画化不可能と言われていた原作ですが、あのシーンはどうなるんだろう…というワクワク感もあり比較的期待しかない気持ちで視聴しました。

 

感想としては めっちゃ良かった!!!

 

この映画、おそらく好き嫌いというか向き不向きがはっきり分かれるタイプだと思います。でも原作を読んでその世界観が受け入れられたなら大丈夫!置いてけぼりになる心配さえクリアしたらとても楽しめる映画です。

そして結論から先に述べると、この作品、原作の形を最大限に残しながら映画という媒体に表現を最適化した、という点で最高です。

 

というわけでパンク侍の映画どこが良いの?というお話を「小説の映画化」という観点から述べていきます。

 

① 要素の削ぎ落としや繋ぎ方の鮮やかさ

どこをどう改変したという事はネタバレになるので書きませんが、決して大幅な変更はありません。(人によっては好きなシーンが削られたなどあるとは思いますが)小説としては読めても2時間強の映像の中では回りくどくなってしまう展開などをスッと切って繋いで本筋に戻してくる手並みの鮮やかさ。そしてその部分にも面白さを追加してくるあたりはさすがです。

原作小説はストーリー性云々というより、文章を追っていたら何か色々起こった!というタイプの作品が故、意外と心に留まらないところは忘れがちなので、映画の後本を読み返してみると、思ったより改変されていたんだなと気が付きました。大筋の流れと作品としての軸がブレなければ不必要な所はバッサリ行っても大丈夫なんですね。

 

② 原作のエッセンスを持ちながらも、今の時代の映画としてアレンジされたセリフ回し

脚本家がクドカンこと宮藤官九郎なのでセリフが面白くなる事は折り込み済みでした(あの時代設定に横文字を多用したセリフ、原作を知らなかったら宮藤氏の発案だと思う人がいるのかな、という余計な心配をしていた)。しかし映画をみた当初は原作そのままのセリフが多用されている印象がありました。

しかし本を読み返してみると、意外とそのままのセリフは多くありません。原作小説には「冗長に喋る」という特徴があります。小説であれば冗長さで生じる可笑しみをなどを楽しめますが、映画のセリフとしてはまどろっこしくなる部分もあります。そのセリフを「あー、原作でも言ってた」と錯覚するレベルで原作のエッセンスを継承しながらも、映画らしく現代的な要素も取り入れながら聞きやすいセリフに置き換えています。

また原作の文体は「祝着」「卒爾」などの堅めの時代がかった単語や「してこます」「せんければならん」といった言い回しが頻出し独特な癖があります(河内弁か泉州弁が元になっているのでしょうか)。こちらも音声で聴くとクドい印象になりそうですが、映画ではその要素はなくサッパリとした印象になっています。

 

ここまでで言いたいのは、クドカン凄かったんだな!という事です。

宮藤官九郎脚本作品は断片的に触れてきたような記憶はあるのですが、なんとなくセリフを始めとして面白い脚本を書く、というイメージしかありませんでした。多分良い脚本家だとは思うけれど、なんとなく「真っ直ぐでちょっとダメな所のある主人公の笑いあり涙ありのハートフルコメディ(阿部サダヲ出演)」※1という類の作品に携わっているという勝手な印象があり、自分の興味範囲と被らずそこまで注目していませんでした。原作がある映像作品の脚本の具体的な仕事の内容をいまいち理解していなかったというのもありますが、私の中でクドカンへの再評価が熱いです。

原作を損なわずに紙の上の文章でのみ触れてきたあの登場人物たちがスクリーンの中で生きている!という楽しさへ昇華しきっています。

 

さて、ここまでは原作を知る方々に対してこの映画の素晴らしさを語らせていただきましたが、そうではない方々にも向けてお伝えしたいのが

③ 本作の映画的な魅力的について

まずはキャストが素晴らしい。正直原作小説を読んでも、どのキャラクターにどの俳優が適任かということが思いつかなかったのですが、結果的に全員が嵌っている!

全員の名前を挙げるとキリがないけれど、まず北川景子の可憐さとミステリアスな雰囲気の多面性と圧倒的な美しさの説得力。演技派で色々な役をこなしている染谷将太ゆとり世代風な人物造形へのリアリティ。唯一実力派のイメージがなかった(失礼)東出昌大のお殿様役への嵌り方。内藤帯刀役の豊川悦司・大浦主膳役の國村隼という配役を知った時は、原作のイメージからすると逆では?と思ったけれど※2、観てみるとこれで正解でした(公式の云うように、國村さんは超キュートだし豊川さんは超キレモノ。イイ)。猿は殆ど顔が見えないのに永瀬正敏を起用するという贅沢。主演の綾野剛もめちゃめちゃ良かったのですが、それが一瞬霞むくらい皆さん凄かった。多分綾野さんはナチュラルに掛十之進そのものすぎたのだと思います。あとアクションが良かったのと原作だと伝わりにくい人たらし的な感じ※3が凄く出ていました。

その他には迫力ある戦闘場面、現実にはあり得ない映像の数々。サイケ味のある鮮やかな色調の衣装。屋敷や寺、外れのスラムっぽい街並みなどの映像美など映画的な醍醐味がたくさん詰まっています。※4

内容はブッ飛んでるので、見終わったあとに一応のあらすじがトレース出来ればOKくらいの気持ちで見て頂ければと思います。江下レの魂次(えげれのこんじ)という人名や変粉(へんこ)という店名など一般的な日本語感覚から外れた固有名詞が出てきますが、そこには引っかからずそういう世界観だと思って下さい。

 

正直、映画なんて感性の問題な所もあるし何が好みのツボか何がNGポイントかは人それぞれなので、そこを気にし出したら何もお勧め出来なくなるので気にしない。

とにかくこの記事を読んで少しでも興味を持ったら映画館で観てみて下さい!

私は今からDVDを購入するつもりでいるので、円盤化されなかったら困ります!

 

※0 この記事では人名は初回フルネームでの記載の際は敬称略、その後は呼びたいように呼ぶ体裁を取っています。

※1 勝手なイメージですがそのようなハートフルコメディかローカルな若者文化の中で起きるハチャメチャ劇のどちらかのイメージがあります。自分の関心の範囲内で作品を観るのでクドカン氏を脚本家としてより役者として見かける率の方が高い気も。阿部サダヲ氏は医龍の麻酔科医の役が一番好きです。

※2 元々は内藤が頭脳派で狸ジジイ風、大浦が直情的な武闘派、という印象。

※3 そもそも当作品は登場人物の誰かに同一化したり愛着を持つタイプの話ではないと思っているのですが、原作の文章だと掛に対して可愛げみたいなものは感じませんでした(客観的に人物を見る滑稽味や言ってることの面白さがあります)。映画では軽めになったセリフと生身の人間として可視化される事によって、何だかんだ人に可愛がられる感じが出ていました。

※4 映画の主題歌が何になるかも楽しみにしているので、アナーキー・イン・ザ・U.K.の許諾が取れたのめっちゃ良かったなと思います。エンドロールで感覚ピエロが起用されたのは何故?と思ったけれど多分真面目に受け取ってはいけないやつ(というか絶対笑わせにきてる)なのではと勝手に解釈しています。パンク。