日本SF大賞受賞「ゲームの王国」を読んでほしい
今年の1月はいつになく充実した読書ライフを送っていたのですが、その中でも小川哲「ゲームの王国」が衝撃的でした。
とはいえ、ジャンルがSFかつテーマがポルポト時代のカンボジア、なんとなくハードルが高そうなイメージもあります。これまでお勧めしたくても凄い!面白い!と満足に説明も出来ていなかったのでちょっとまとめてみたいと思います。
①ざっくりとした特徴
上下巻に分かれ、上巻は抑圧された社会状況の中で生きる主人公二人それぞれの子ども時代が描かれます。ムイタックは村の神童レベルで頭の良い少年、ソリヤはポルポトの隠し子とされる少女でこちらも才媛。評価が高いと言われているのがこの上巻に出てくる村のマジックリアリズム的な世界観。
下巻はポルポト時代が終わり主人公達が大人になってから。上巻とは打って変わってSF風味が強まります。
②個人的な感想
タイトルにもある「ゲーム」という概念をどう捉えどう理想化するか、が主人公二人の人生を大きく分けるのですが、私自身は娯楽としてのゲームにあまり親しみがなく、削ぎ落とされた概念で思考するのが苦手なのでソリヤの行動原理の方が共感は出来ます。
あと一番の読みどころはやはりマジックリアリズムですね。
マジックリアリズム自体は日常的な描写の中には非現実的な要素が混ざる事なので村上春樹やそれこそ上記の町田先生のギケイキとか、というか昔の偉人モノの殆どがもうマジックリアリズムじゃんとも思うのですが、所謂閉鎖的な田舎町・濃密な人間関係を舞台として描いたものが狭義のマジックリアリズムな気がします。
で、この作品では語弊のある言い方ですが、馬鹿の描き方が上手いんですよね。因習に囚われてムイタックの進歩的な考えが分からない、分かる気もない。逆に馬鹿にされる。
ムイタックの友達にクワンという輪ゴムと会話できる子がいるのですが、輪ゴムと会話できる事以外は相対的にちゃんとしています。でも脈略なく輪ゴムの話をしてしまうからクワン自体が馬鹿にされる。ムイタックは地頭もいいので上手いことやるように教えてくれます。
全体的に上巻は重いテイストですがこういったユーモラスな描写があるのも魅力の一つですね。私もムイタックみたいな友達欲しかったです。
③強いて言うなら
グロい描写、汚い描写が苦手な方、凄惨な史実をフィクションとして消費したくない方は避けた方が無難かも知れません。
あとは長編の重厚な作品を読みたいという気分が大切ですね!
帯に書いてある「伊藤計劃以降という時代は本作の刊行によって幕を閉じる」という言葉、それくらいの衝撃はありますし、作者もトリビュートに参加したりして似た側面(記憶とか脳とか観念っぽいところ)もなくはないですが、あまり伊藤計劃については気にせず読むのが良いと思います。文体とか全体的な印象は似ていません。計劃作品に出てくる楽しそうなガジェットとか出てこないしゴリゴリのSFでもないです。
色々書きましたが、SFありマジックリアリズムあり政変劇ありボーイミーツガール要素もありの読み応え大あり作品です。