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原作ファンにも役者のファンにも映画「去年の冬、きみと別れ 」をお勧めしたい

中村文則氏の小説を原作とした映画が極めて商業的な雰囲気でプロモーションされている、という事に気付きとても気になっていました。

元々中村文則氏の小説は何作か読んでいましたが「去年の冬、きみと別れ」は未読でした。というのも、中村文則という作家は今でこそデビュー時と比べ比較的リーダビリティの高い作品を多く書かれていますが、私の中でかなりの正統派な純文学作家、というイメージがあったため、タイトル※1の時点で何となくあんまり好きじゃない方向性(重めの純愛物語的な)に行ったのかなぁと思い込んだのです。

ところがここに来ての映画化、主人公は岩ちゃん※2こと三代目JSBの岩田さん、ポスターも登場人物多目でよく分からないテイスト、どんな話なのか俄然気になって調べてみました。

調べた所まさかの叙述トリックものとの事。ネタバレ読んでしまったけどめちゃくちゃ面白そう。早く言ってよ⁈という自分勝手な気持ちになりました。だって芥川賞作家が直木賞作家みたいな手段でエンターテインするとは思わないじゃないですか。

 

興味を惹かれたものの、正直良くも悪くも好きでも嫌いでもないキャスト陣だったのと、叙述トリックのある作品の映像化は無理矢理感が出そうなので放置していました。が、FM802で野村雅夫さん※3がその叙述トリックの処理の仕方を評価されていたので観に行く事にしました。

特別に原作やキャストに思い入れがないけれど気になる作品こそ、実は自分にとっての名作になりうる事はドラマ「カラマーゾフの兄弟」※4で学んだからね!

 

休日の映画館は混んでいたのですが、この作品のスクリーンは空いていました。わーい。

岩ちゃんのファンだらけだったらどうしよう「ワタシどちらかというとフミノリのファンです」みたいな顔しようかなとか考えていたけど無意味でした。作品自体を観に来た一人客の方も多い印象でした。

 

観た感想としては、映画として凄く良かった。映像としての美しさだったり視覚的に印象に残る絵作りだったり。トリック部分もちゃんとヒントになるような違和感を残す演出でフェアだと思いました。文章媒体でしか成立しない叙述トリックを処理する脚色も、原作から筋としては大きく掛け離れない物で寧ろこれ以外の解決策は思いつかない。

後から思い返すとおやっと思う点がない事もないですが、総合力で帳消しです。

キャストの皆さんも良かった。山本美月ちゃん※5も浅見れいなさんも美しくて惚れ惚れするし土村芳さんも可憐だし、それでいてその役柄にしか見えない。

岩ちゃんも造形としてはイケメンの筈ですが、映画上はイケメンというより普通にルポライター。若々しいイメージがあるので20代前半か半ばくらいかと思っていたのですが29才なんですね。役柄もおそらく30才前後だと思うのですがもちろん違和感はありません。

斎藤工さんはやはりスクリーン映えしますよね。そしてああいうアウトローっぽい役が似合う。個人的には好きでも嫌いでもないのですが、前述のカラマーゾフの兄弟など純粋に良いなと思う作品によく出演されているので、客観的に凄く良い俳優なのかもと思います。

というか、良い作品を観ると出演しているキャスト陣の好感度上がりますよね。

 

その後すぐに書店で原作小説を購入しました。冒頭から読んである意味安心したのが、登場人物達がちゃんと中村文則作品の住人だと分かる語りをしているところ。全然斎藤工とかじゃない。中村作品の人は内省的で独自の観念に囚われている事が多いのですが、映画では良い意味で削ぎ落として分かりやすい表現に置き換えていますね。それ以外にも上手く映像化に際して煩雑になる要素は削った印象です。

原作の方はやはり複雑な内面の描写、思わせぶりな会話、トリックに満ちた重層的な表現など文字媒体ならではの醍醐味があります。

 

最近めっきり機会が減ったとはいえ趣味は読書の私、割と好きな作家の小説を映画の方から先に観る、というのはなかなかイレギュラーな体験だったのですがアリだなと思いました。

興行成績はそこそこ良いようですが思ったより少なかった客足、LDH系の役者と陰鬱そうな原作というタッグによりお互いのファンが敬遠※6しあっているのであれば勿体ないです。現に私は岩ちゃんの演技良いなと思いましたし。

去年の冬、きみと別れ」の映画に関しては、面白いので原作ファンも役者さんのファンも、どちらでもない人も是非観てくれたら良いなと思います。

 

 

※1 中村さん、作品のタイトルを付けるのが下手だから自分では付けないって以前おっしゃっていましたけど今回誰が付けたんですかマジで下手かよ(失礼)。このタイトルに関しては結構ちゃんと意味あるので完全に私の偏見のせいなのですが

※2 LDH系列のグループに興味を持ってこなかったのですが、3代目JSBとジェネレーションズの違いをあんまり分かっていなかった自分に愕然としました。時代に取り残される。岩田さんに関してはこの映画の宣伝で出演された番組で、知的な受け答えをされるなという印象でした

※3 毎週金曜日放送「Ciao!MUSICA」にて

※4 未だに小説は読んでいないのですが、ロシア特有の宗教要素を排し翻案した良作かと。というかとにかく音楽が格好いい。御屋敷も格好いい。吉田鋼太郎氏を知ったのもこの作品(ニガミ17才の平沢あくび嬢が女優として一瞬で出ているのも個人的ポイントです)

※5 ほんの一瞬だけ、斎藤工さんとのシーンで火村英生先生と貴島朱美ちゃんだ、と思ってしまいました

※6 音楽性が違いすぎるバンド同士の対バンで「今回はパスかな」となりお客が少なくなる現象に似ている