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脱毛サロンCMでの曲の起用でCHAIは新たなフェーズに入るのか

 


ミュゼプラチナムCM【2018 MUSEE ALWAYS FRESH篇_15秒ver.」

CHAIの曲がテレビから流れているなあ、とぼんやり思っていたら某脱毛サロンのCMでした。起用されている「sayonara complex」という曲はスローからミディアムテンポで爽やかで綺麗なメロディで、確かにCMの映像や脱毛サロンが訴求したいメッセージに合致しているのですが、私は凄く意外性をもって受け止めました。

あのCHAIが?ムダ毛処理について「ぎゃらんぶー」でコミカルかつパンチのある楽曲で取り上げたCHAIが?


CHAI / ぎゃらんぶー MV (ちゃんとしたミュージックビデオ Ver.)

CMの起用についてはバンドの一存で決まる訳ではないし、大人の事情だろうという向きもあるかと思いますが、敢えてそこは無視してCHAIが今後何をメッセージとして打ち出してくるのか、CM起用は転換期になるのか考えてみます。

chai-band.com

CHAIについての基本情報や経歴は公式サイトその他記事に詳しく掲載されていますのでそちらをご覧いただければと思います。とりあえず個性的で実力があって凄いのが分かるでしょ?

そしてCHAIを語る上で外せないワードが「NEOカワイイ」という概念です。これは「目が大きい」とか「身体が細い」「鼻が高い」と言った一般的にカワイイとされる要素に無理矢理自分を当てはめるのではなく、コンプレックスになり得る要素であってもカワイイのだという主張と結びついています。(とはいえ、CHAIというバンドは「絶対的に主張したい事があるから音楽を手段にする」タイプでも「とにかく目立ちたいor売れたいから面白い事をする」というタイプでもなく、バンドをやりたいしやるからにはちゃんと自分達が本当に思っている事を歌詞にしてコンセプトも付けていきましょう、という割と順当なタイプだと思っています。)この思想を端的に表しているのが「N.E.O.」という曲です。


CHAI『N.E.O.』Official Music Video

 

とても可愛くて格好良くて元気になる曲!

このように一人一人の多様なカワイイだったり容姿上の魅力を肯定しているCHAIが、脱毛サロンへ通う事を促す立場を取ったように見える…。(それがCMというもの)

元々「ぎゃらんぶー」にしても特に脱毛を否定しているわけではなく、ムダ毛処理はするものという前提で特別何かを表明しているタイプの歌詞ではありません。女性がムダ毛処理だったり化粧をする事が当たり前とされている社会はどうなのか、などという議論までいくとテーマが広くなり過ぎてCHAIが伝えたい事とは次元が違ってくるような気がします。なので脱毛サロンのCMに携わる事自体はそれほど矛盾は感じません。(そもそもsayonara complexの歌詞の中にも「ムダ毛といっしょにバイバイ」ってあるんですけどね)(CHAIだったらムダ毛処理や化粧をしない在り方も肯定してくれそうな気はしますが。)

それとは別に、CHAIの主張に少しだけ引っかかる点もあって。CHAIは可愛いし勇気付けられます。特に世の中的に「カワイイ」とされている一方向に囚われている多くの、ジャッジする側される側双方の概念を書き換えていくという意味で価値がありますし、そもそもCHAIのメンバーが考えている事の全てが歌詞に反映されているとも思っていません。

ただ、実際に今の自分が可愛いと言われたところでどうしても自分自身が受け入れられないという事もあると思います。他人を評価する上で色々なカワイイを認める価値観に非の打ち所はありませんが、他人の容姿ならカワイイと認められても自分だったら違う、という場合はありそうです。

彼女たちにしてみれば、かわいいは「つくれる」ものではなく、「(みんなすでに)なっている」ものなのだ。

https://www.google.co.jp/amp/s/rockinon.com/news/detail/168051.amp

上記の記事の言葉を借りるとすれば、カワイイは「なっている」ものかも知れないけれど、それはそれとして別の種類のカワイイを作っていってもいいのでは、と思います。

単純にコンプレックを気に病んで苦しい思いをしている人にとってはNEOカワイイは特効薬なので大いに活用すべきです。

ただ自分の思っているカワイイと他者から投げかけられるカワイイが同じ種類とは限りません。社会生活を送る上である程度一般の尺度に合わせた方が生きやすかったりもしますし。

自分の元々持っている要素を絶対に活かさないといけないの?というと取り分けCHAIの楽曲でそれを強制されているわけでもないです。寧ろ元々持っている物理的な要素+それをどう処理していくか(=どの程度まで受け入れるのか、どのように変えるのか)という内面的な要素も含めてそのままで良いというメッセージであれば良いなと思います。

ここに来て別バンドの話となりますが、バブル時代をテーマにした女性二人組バンド「ベッド・イン」のインタビューでとても納得感のある言葉がありました。

 

女の子が男性ウケのいいモテ服を着ていても「男の人にモテたいから着るんです、何か?」って言えたり、「自分好みの服がたまたま男の人ウケがいいだけ」って言えるんであればよくて。(まい)

https://www.cinra.net/interview/201801-bedin

 

個人的にはバブル時代の文化に興味はなくて、でも演奏とか力強くて格好いいな、くらいの印象だったのですが、このインタビューを読んで好感度が上がりました。私は自覚的な人が好きなので、自覚的な選択を是とする価値観は最高だと思います。

 

思えば、脱毛サロンに行くという事は自分のお金や時間をそこに掛けるという、極めて自覚的な行動です。そのCMに個性的でおそらく自覚的な活動をしているCHAIの曲、合間に聴こえる「かわいいだけの私じゃつまらない」という歌詞、とてもマッチしているとも言えます。

CHAIというバンドが世に出て来て、NEOカワイイという概念を軸に用いて、それを一番分かりやすい形で「N.E.O.」という曲で提示した時点で「カワイイの範囲を広げてありのままの自分を受け入れる」というメッセージを発信する第一フェーズは終了したのかも知れません。

今公開されている新曲「アイム・ミー」はこれまでのCHAIのイメージを踏襲しながらも、更に明るく屈託がない印象です。CHAIの第二フェーズ、今までのように自覚的に更に好き勝手やっていくのだと思うと今後も注目せざるを得ません。


CHAI『アイム・ミー』Official Music Video