思念が奔逸中

情報発信の体裁で雑念のみ垂れ流します

機内で観る「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」

先日のタイ旅行の際、往路は昼間に飛行機に乗ったので機内で映画を鑑賞しました。

有名どころの「グレイテスト・ショーマン」や「シェイプ・オブ・ウォーター」も気になりましたがそんな話題作をスルーして観たのが、邦題「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」です。

www.churchill-movie.jp

選んだ理由としては単純に主演のゲイリー・オールドマンが好きなのと、アカデミー賞で日本出身の辻一弘氏がメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞されたので気になったというのと、元々政治劇は好きな方だった、というあたりです。

これから旅をするんだから機内くらいお気楽で明るい作品を見れば良いじゃん、という気もするのですが、無駄にテンションを上げなくて良い点、あの小さい画面でみても損な感じがしない点、そしてアカデミー賞で話題になった割に実際の上映情報が出て来ずここで観なければ見逃す感(多分地上波にも流れなさそうだし)も相まって常にスーツのおじさん達で黒々とした画面を眺める事にしました。

 

以下、感想をまとめます。あんまり集中して観る環境ではなかったので雑感程度となります。

 

ゲイリー・オールドマンチャーチルそのもの

チャーチルについて詳しい訳ではないけれど、教科書などに載っているあのチャーチルの写真生き写しでした。特殊メイクの技術は凄い。目元の辺りとかはよく見るとゲイリーの要素というか面影が残っているのですが、「ゲイリーが特殊メイクでチャーチルに寄せた」ではなくナチュラルにこういうおじさん居るよねレベルの自然さでした。

それにしても、こういう事を言うと元も子もないのですが、何故チャーチルとは元の外見が似ても似つかないゲイリーをキャスティングしたのでしょうか。年齢の違いはともかく、体型も顔立ちも元から似ている俳優はいそうなものですが、やはりキャリアと実力、英国人という文化的背景から適任だったのでしょうか。確かに演技は素晴らしくて引き込まれました。安定のゲイリー。日本語字幕がなく吹替で鑑賞したので声が聞けなかったのが残念でした。

 

②演出とかストーリーあれこれ

映像としては全体的に黒々としたトーンの中で、チャーチル宅のシーンになると柔らかな日差しが入ってきて明るく穏やかな印象になります。こういった英国の建築物の明と暗の両方を美しく効果的に魅せるのはさすがジョー・ライト監督(「プライドと偏見」、「つぐない」で顕著)だなと思います。

観るとは思ってなかったので、戦況に関しては予備知識ゼロでした(この辺りの局地的な戦況って学校で学びましたっけ?教養が欲しい)。この作品は新人秘書のエリザベス・レイトンの目線で描かれる場面も多いので、与えられる情報の少なさから来る不安感(不謹慎ですが有り体に言うと、この映画のストーリーこれからどうなる?という手に汗握る感)が割と同一化された状態で見れます。出番の多い役ですが、比較的癖のない好感の持てるキャラクターだったのと、個人的に演じるリリー・ジェームズが好きな感じの見た目だったのが良かったです。

作中の日にちが変わると画面に大きく日付が表示される演出があり、切迫した状況の中で物事が決められていったという事が体感的に分かるようになっています。

邦題が邦題なので、ハッピーエンドというか希望の持てるような結末になる事は予想をしていました。しかし政治家がチマチマ密室で会議をするという地味な絵面でどのように大団円に持っていくのかと思っていたのですが、思いの外熱いラストでした。(邦題で明言する是非は置いておいて)チャーチルの行動の何を以て世界を救う、という事にするのかが明確に表現されていたと思います。

 

③しかしこれをうっかり鵜呑みにしてはいけない気もする

こういう健全なナショナリズム(パトリオティズムって言った方が聞こえが良さそうだけどこの場合はナショナリズムよね?)風味の話、おそらく私が好きなタイプの話で簡単に感動してしまいます。戦争も軍事関連コンテンツも好きではないのですが、「国」という枠組みが素朴に存在していた時代の経済や政治分野での「国」を底上げする為、一廉の国と認められる為のパワーや矜恃といった文脈が刺さるのだと思います。且つそこに人権意識やら倫理観を絡められると、更に感動の正当化が凄い事になりそうです。

でもなんとなくそのまま思考停止してチャーチル礼賛して終わるのも引っかかったので、帰国後簡単にネットで調べてみました。映画の中でもチャーチルは強硬な姿勢を見せていますが、立場や戦略上冷静というのを越えて「戦争屋」という印象を受けました。実際に史実としても派手な戦略好きであったようです。また一番感動を呼びそうな終盤手前の(フラットで人権っぽい)エピソードがあまり現実的じゃないなと思っていたのですがその部分のみ脚色されていたらしいですね。第二次世界大戦を題材にした一般向けの映像作品では、ヒトラーについては(序盤に少し歴史的資料のような本人映像を流して)悪の概念のような描き方しか出来ないのだとは思いますが、それに対してのチャーチルを単純に善の象徴と位置付けられてしまうのは宜しくないなあという気分です。

おそらく英国や欧米の人の中には「チャーチル=気難しい嫌われ者のじいさん」という共通認識があろうか思うので、大戦中の功績を縦軸に据えつつも、そのじいさんの家庭人としての側面や意外とお茶目な部分などの人間味という切り口が有効なのだと推察します。が、私のように顔と最低限の史実しか知らない浅学なタイプの視聴者にはそのギャップ感が伝わりづらい。元々知らなかったので全体として新鮮ではあり、また1人の政治家として興味を惹かれましたが。

 

題材が戦争なので、恐らく複雑な思いを持つ方はいらっしゃると思いますが、一つの映画作品としては丁寧に作られた良作だと思いました。