今こそドラマ「カラマーゾフの兄弟」を観よう
現在放送中のドラマ「おっさんずラブ」があと残すところ最終回のみとなりました。テーマ設定もさることながら、全7回と短い中毎回怒涛のストーリー展開で視聴者を惹きつけて止まなかった同ドラマ、既に放送終了後のロスに備えて身の振り方をお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私はといえば既に、第6回視聴終了後あまりの展開に落ち着かなくなって「カラマーゾフの兄弟」を見直す作業に入っております!
2013年1月クールに放送された「カラマーゾフの兄弟」はその名の通り、ロシアの文豪ドストエフスキーの同名小説を原案としています。おっさんずラブでは主人公を取り合う部長と後輩社員の間柄を演じている吉田鋼太郎と林遣都が、殺された父親とその殺人の容疑者となる三兄弟の三男、という役を演じました。おっさんずラブは果てしなくワチャワチャした展開や、登場人物全員に幸せになってほしいけれどそれが困難な切なさに心が忙しくなりますが、カラマーゾフの有無を言わさぬ重厚感はクールダウンに最適です。そして一旦憎しみの世界を見るとおっさんずラブはマジでラブに溢れています。
というわけで、今回はドラマ「カラマーゾフの兄弟」の超個人的に良いと思う所をお伝えしていきたいと思います。
なお、筆者は原作小説を読んでいませんので原作と異なるところは伝聞です。だってドラマ観て満足してしまったし
①キャストについて
主要人物のキャストは下記の通りです。括弧書きの名前は原作で該当する人物の名前です。
黒澤 勲 (イヴァン) 黒澤家次男 弁護士- 市原隼人
黒澤 満 (ミーチャ)黒澤家長男 失業中 - 斎藤工
黒澤 文蔵 (フョードル)黒澤家当主 黒澤地所社長 本作品の冒頭で殺害される - 吉田鋼太郎
黒澤 詩織 (ソフィヤ)文蔵の後妻 勲と涼の母 故人- 安藤サクラ
末松 進 (スメルジャコフ)黒澤家の使用人 - 松下洸平
小栗 晃一(グリゴーリイ) 秘書- 渡辺憲吉
遠藤 加奈子 (カーチャ) 満の恋人- 高梨臨
吉岡 久留美(グルーシェンカ) 文蔵の友人 職業愛人- 芳賀優里亜
入江 悟史 文蔵殺害事件を担当する刑事- 滝藤賢一
カラマーゾフの兄弟は文蔵が殺害される直近の三兄弟に起きた出来事を描きながら、殺害後の刑事の事情聴取の場面を差し込みつつ展開していきます。
三兄弟それぞれの視点から描かれますが、次男・勲の視点の比重が大きくなっています。※1勲はエリート思考で冷静沈着(どちらかというと冷血)、鬱屈とした性格なのですが、このメインの役にそれまで熱血漢を数多く演じてきた全くイメージの異なる市原隼人を起用したのが画期的です。
また2018年現在では一般にも名が知れ渡った人気実力派俳優の吉田鋼太郎、斎藤工、滝藤賢一、安藤サクラが2013年段階で一堂に会しているのも先進的に感じられます。活動するフィールドの問題であり、それまでに十分キャリアを積んでいる方々ではありますが、舞台やマイナーな邦画に接してきていない私にとって、斎藤、滝藤、安藤氏に関しては最近見る顔だな、というくらいでしたし、吉田氏に至ってはそれまで認識すら出来ていませんでした。このキャストが本当に良い演技をするのです。めちゃくちゃ豪華。
滝藤賢一といえば同年9月クールの「半沢直樹」の近藤さん役で可哀想と話題にグッと知名度を上げた印象がありますが、この作品では三兄弟を執拗に尋問する刑事を演じています。言葉尻を捉えて嫌味ったらしく追求し揺さぶりを掛ける演技は目力も相まって存在感に溢れています。この刑事と三者三様に答える兄弟の駆け引きも見所です。
そしてこの作品で知った吉田鋼太郎。シェイクスピア演劇仕込みの声量のある演技は、テレビドラマの中では浮いているように当初は思いましたが、古色蒼然としたお屋敷に、急に観念論を語り出す次男、バーで喋るだけなのに回りくどい台詞を放つ長男、といった少々現実離れした世界観の中で確かに核となっていました。
②名前の翻案について
「カラマーゾフ」というのは舞台となる一家の名字ですが、ロシア語で「黒塗りの」という意味だそうです。それに合わせてドラマ版の一家の名前は「黒澤」※2 となっています。また一家が牛耳っている地方都市の名前は「烏目町」。ドラマの暗くケレン味のある印象と統一しつつ、カラマーゾフ という語感と揃えてきているところがにくいですね。
それ以外の登場人物の名前は、頭文字が共通していたり、子音や母音の配置によって似た語感になるように翻案されています。特に秀逸なのが満・勲・涼の三兄弟の名前。兄弟らしく漢字一文字縛りで翻案しただけでなく、それぞれの性格ともマッチしています。三男のアリョーシャは頭文字や性格を考慮に入れると明や篤でも良かったのかもしれませんが、敢えて真ん中のリョーを採ったところにセンスを感じます。響きが現代っ子ぽくて林遣都の涼やかな見た目に合ってて良い 本名遣都だけど。
反対に久留美だけは音の響きから小動物っぽい可愛さがあって役と合致していない印象を持ちました。
③個人的に世界観が好き過ぎる
先にも述べたように、このドラマは色は黒を基調とし、時代がかった重厚でダークな世界観になっています。舞台となる都市の名前が烏目町というのもあり烏の映像をバックにタイトルロゴが現れます。
テーマソングはローリング・ストーンズの「Paint It,Black」、邦題「黒く塗れ!」です。これまた意味合いを被せてきたのですが、古典名作にロック、合わないと思いきやあのダウナーで淡々としたダークなイントロと歌唱がめちゃくちゃ相乗効果を発揮します。このテーマソングを皮切りに、NirvanaやRadiohead、The White Stripesなどの洋楽ロックを聴いてきた特定の層に照準を狙い定めたサウンドトラックになっています。※3
黒澤家のお屋敷の外観として鎌倉文学館が採用されているのも個人的にはポイントが高いです。三島由紀夫の「春の雪」に出てくるお屋敷のモデルにもなった建物です。
④まとめ
上記のように「カラマーゾフの兄弟」の良いと思う所を列挙させて頂きましたが、結局「めっちゃ私の好きなツボ押さえてくるー」という事が言いたかっただけですね。なんというか一つ一つの演出※4 がとてもクールに見えます。世界観に嵌り過ぎたが故に、吉田鋼太郎の存在を記憶に刻みつつ、特定の役者のファンにはなりませんでした。役者よりも役柄が上回ったのでしょうか。誰に共感するとかいうタイプのドラマではありませんが、実の所三男の涼君は良い子過ぎてイマイチピンと来ませんでした。が、おっさんずラブの牧君を観てから林遣都氏良いやん、となっております。
支離滅裂になってきましたが、おっさんずラブとカラマーゾフの兄弟、両方みたらパラレルワールドみたいになってどちらの世界線も救われて見える気がする、というお話でした。
※0 この記事では敬称を省略させて頂いております
※1 次男・勲は「汚れた血族」という小説(兄・満曰く「キモい小説」)を書いており、折に触れて小説を執筆する場面が挿入されます。蓄積した憎しみや葛藤を感じさせるドラマティックな演出ですが、確かにキモいというか厨二がかった単語が散見され小説として読むには面白くなさそうです
※2 奇しくも「おっさんずラブ」にて吉田鋼太郎が演じているのは「黒澤」部長。ちなみに林遣都が演じているのは「牧凌太」。容姿から来る印象に一致しやすい名前というのがあるのか
※3仮にこの曲達を知らなかったとしても選曲の格好良さは伝わるはず、と思っています。知っているからこそのバイアスはありますが、BGMというよりかなり印象に残るドラスティックな流し方です
※4 モノクロの映像から誰かが転換となる一言を言った時点でカラーに切り替わるの最高