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生誕110年 東山魁夷展 感想

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会期終了前日に滑り込みで「東山魁夷展」を観てきました。会期は後1日しか無いのですが終わる前に感想を述べておきます。

 

生誕110年 東山魁夷展 | 京都国立近代美術館

本当は先週行きたかったのですが台風の影響で臨時休館となりまさかの三連休の中日に行くことに。京近美の周りはホールや展示会場が集まっているのですが、ちょうどよく分からない野外イベントがあって賑やかでした。それなので実際に京近美に向かう人がどれだけいるのか観測出来なかったのですが、しっかりチケット売り場も建物に沿って列が出来ていて流石の東山魁夷でした。(海外名画や切り口が面白い企画よりは若干渋めですが、京近美にしてはメジャー感のあるテーマ(画家)という事を鑑みると、ある意味妥当な混雑具合と感じました)

 

展示会場の入り口は建物エントランスから入って正面の大階段と、エレベーターで上がる二つありました。私は大階段から入場しましたが、こちら側から入ると第1の空間から第2の空間への順路が直感的に分かりづらいように感じました。これに関しては10月とは思えない暑さと予期せぬイベントでの騒がしさによる疲れで私がボンヤリしていたせいもありますが若干ストレスでした。雰囲気を保つために極力パネル掲示等を避ける観点は分かりますが、迷いそうな所くらいは配慮があっても良いと思います。

 

反対にいうとそれ以外の観点では、全体的なパネルの少なさは功を奏していたと思います。近年の美術展は「企画」の要素が強いものが多い印象です。来場者が作品を観る上での新たな視点を予め提示し、それに沿った情報を随時(各セクションなり各作品なり)与えていくという形式のものは、その分情報量が多くなりパネル量も増えます。

こちらの展示は、各セクション毎に導入パネルはあるものの、説明コーナーというほどの量はありませんし、一つ一つの作品毎の制作背景の説明も置いていません。作品そのものをどっしりと見せていくようなタイプの展示でした。題材自体がそれほど説明を要するタイプでは無いのもありますが、絵の力そのものがシンプルに伝わる作りです。そして、パネルがないことで会場全体の動員の割には、一つの作品の前に滞留する人が少なくスムーズで見やすいように思いました。

 

広報物に掲載されているメインコピーは"本当の「あお」に出会う"ですが、当然ながら、あの東山魁夷の代名詞といえそうな黄味の強い緑に近いような、所謂ティファニーブルーに近いニュアンスの青以外をメインに据えた作品もあります。有名な「道」が比較的早い段階でサラリと置いてあったのも意外でしたが、ふんわりぼかしたような優しげな風景画は東山魁夷の一面に過ぎずコントラストの強い風景画を見られたのも意外で良かったです。個人的には北欧の静謐で峻厳な印象の作品が素敵だと思いました。

一部建築を描いた作品もありますが、自然をメインにした風景画が多くを占めています。様々な土地の様々な自然の表情が立体感を持って描かれていて、これは実際に本物を近くで見る醍醐味だと感じました。

 

会場は前述した大階段を登った先の3階全域と4階の一部で「東山魁夷展」を、4階の残りのスペースで「バウハウスへの応答」の展示を行なっていました。3階から4階へ移動する際に、エレベーター側からの入場口の前を通る形になります。こちらには、唐招提寺の障壁画「山雲」を再現したものが展示されていました。再現だし照明も暗かったけれどこれが素晴らしかった。これまでの展示であのティファニーブルー以外にも様々な「あお」を見せ付けられていたわけですが、これが本当の「あお」かと勝手に思いました。より青味が強く冷たい感じの色で個人的に好きなタイプの青だというのもありますが、障壁画という枠の中で斬新さと品格を兼ね備えた表現だと思いました。近年でも現代画家の方が寺院の障壁画等を手掛けられ、先進的な試みのように感じながらそのニュースに触れてきましたが、こういった伝統と先進性の融合はいつの時代も行われていたのだと実感しました。先程入場した際はキュレーションが不親切だの思っていたのに、大階段から入って3階の最後に見られて正解だと図らずもキュレーターに感謝しました。

 

正直もう4階の展示は蛇足ではないのかとすら思ったのですが、全然そんなことはありません。晩年の普遍性を高めた作品はどんな作風であっても凄みがありました。

 

併設の「バウハウスへの応答」も興味深かったのですが、こちらも順路の問題が。東山魁夷展から続く形で入場しましたが、4階の広間の所から直接バウハウス展へ入場するのが正式な順路だったので、今何を見ているのか分からず作品を見て後から知るという現象が起きました。一つ一つの展示物毎に(あるいは特定の展示物を重点的に)解説がついている事もありませんでした。スペースの関係上仕方ないとはいえ、若干フラストレーションが溜まる作りです。東山魁夷展は一人の人物がテーマとなり作品も基本は平面の絵画なので、説明が少なくても成立する展示ですが、「バウハウスへの応答」はどちらかというときっちり情報・知識を提示していく必要があるタイプの展示であるように思います。とはいえ、バウハウスについて改めて知る事もあり、中々お洒落空間で楽しかったです。久し振りに井田照一の作品も見れたので良かったです。