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ホンダ車「ジェイド」と米津玄師「LOSER」タイアップの違和感は確信犯か

 


JADE「NEW STYLE WGN」篇 30秒

先日から、米津玄師の「LOSER」がタイアップ曲となったホンダのジェイドという車種のCMが流れています。

車が必ずしも勝ち組の象徴ではなくなって久しいと言えど、敢えて負け犬を意味するLOSERという曲が起用されるという現象に世の中の風潮は分からんわ、という気持ちになりました。曲調には疾走感があるとか、曲全体ではポジティヴなメッセージを発信しているという問題では無いのです。ハッキリと「アイムアルーザー」とキラーワードが聞こえ、LOSERとクレジットされる事のインパクトの問題です。(とはいえlemon=ポンコツ車は流石にアウトだろうな…)

 

こんな記事を書いていきますが、決してホンダを敵対視している訳ではありませんし、寧ろLOSERという曲は好きです。米津玄師氏の曲の中では爱丽丝 の次に好きかも知れません。

 

爱丽丝 については下記の記事をご参照下さいませ。

malily7.hatenablog.com

 

そもそもタイアップ曲の歌詞やタイトル以前にこのCM、全体として違和感しか作用しない作り方をしているように感じます。正直私は車に興味が無いので的外れな分析になるかも知れませんが、マス媒体でCMを流すという事は購入を検討すらしていない層の関心をも惹くのが目的のはず、と開き直って己の感覚を信じていってみます!

 

車のCMというと主に二つの典型的な型※1が想起されます。

①メリット列挙型

「バックモニター付き」「三列シート」など具体的な特長を丁寧に映像化・言語化して伝えるタイプのCM。走る事そのものやステイタス感よりも、安全性や利便性を重視するファミリー層や女性がターゲットの車種に多い。ターゲット層と同一化しやすい出演者を顔が見える形で出し、親しみやすい印象になりやすい。

タントのCMが象徴的


TVCM タント 「高級レストラン」篇(15秒) ダイハツ公式

 

②イメージ訴求型

走る姿を俯瞰で撮影した映像を用い、疾走感やクラス感などの購入対象層が好ましいと思うイメージを訴求。

米津玄師氏のリスナー層と被りそうなアーティスト※2 の曲を起用したこのタイプの例

MINIのCM  

[ALEXANDROS] I Don't Believe In You


MINI Hatch F55/56 15s TVCM

 

疾走感と小回りの良さを端的に訴求。[ALEXANDROS]の都会的なイメージともマッチしています。曲は英詞なので[ALEXANDROS]を知らない視聴者からすれば格好いい洋楽扱いで認識されそうです。実際のところは分かりませんが、洋楽に高い使用料を使うのなら楽曲として同じクオリティで同じ効果が得られる国内のアーティストを起用した方が良いし更に拡散力も期待出来そうです。

 

この②をベースに①のターゲット層の自己投影を促す手法をとったのがこちら。

ダイハツ トールのCM

レキシ KATOKU


レキシ〖池田貴史〗トール ダイハツCM 「成長記念日 納車」篇 15秒 Rekishi Takafumi Ikeda DAIHATSU Thor

 

イメージ的な訴求でありながら購入対象層がシチュエーションを想定、共感しやすい作りになっています。家族向けの商品に合わせ家督をテーマに書き下ろした曲、かつレキシ氏も出演という音楽ナタリーとかを読む層にはニュースバリューのあるCMでもあります。

 

ここでジェイドのCMの要素を振り返ってみます

⑴自宅風の小綺麗な建物から出発、荷物を積むシーンでトランクの広さを示唆

⑵出演者は30代くらいの男女、男性は欧米系、女性は東アジア的な容姿(もしかしたらハーフかも)ですがあまり顔が見えず女性の方を辛うじて認識できる程度

⑶街中からトンネルを抜けて自然溢れる道路へ。全体的に外国風の風景

⑷黄昏時に自宅とは別の建物へ到着。降車して歩く後ろ姿 ※3

 

これらを踏まえると違和感の正体としては下記のことが言えそうです。

▪️⑴の尺が長めで説明的な所作だったため第一印象が①のメリット列挙型であったのに、車が走り出したら⑶の時点で②のイメージ訴求型に切り替わった点

トールの場合は②に①でよく使われる「手法」を取り入れましたが、ジェイドは場面展開で①と②の両方を取り入れたため視覚的な違和感が生まれたように思います。

▪️CMとして②を基調としている割には、登場する男女へフォーカスする部分が多い点

MINIのCMで一瞬顔が映る欧米系の運転者に自己投影する視聴者はほぼいないと思われますが、ジェイドの場合は絶妙にターゲット層を意識しているようなしていないようなキャストを起用、CMで描かれるシチュエーションと自分達の生活を重ね合わせられるような演出も含まれています。

▪️映像の雰囲気と曲調が合っていない

⑶の特にトンネルを抜けてからは明らかに海外を思わせる風景となっていますが、それに対し米津玄師氏の発語のキレがいい日本語の歌唱が合わさるため何となく噛み合わない印象に。

また個人的には、LOSERの曲調であればもう少しスカッと晴れ渡った青空の下か都会的な夜の方が合うように思います。というか地下鉄が一番似合う。CMでは曲調に対して、特に⑶から⑷にかけてクラス感寄りで絵面がしっとりし過ぎているように思われます。

 

色々述べて来ましたが、ではホンダは何も考えずにこのCMを作ったのか、というとそうではないはずです。元々ホンダのCMは音楽のセンスが良いとされていました。記憶に新しいところでは2016年秋にヴェゼルという車種のCMでSuchmosの「STAY TUNE」が起用された事でしょうか。

bunshun.jp

前述したMINIのCMは2017年秋からの放送でしたが、2015年以降[ALEXANDROS]は複数社のCMタイアップ実績がありますから特別意外性のある起用ではありません。※4

それに対してSuchmosが2016年に頭角を現し当該のSTAY TUNEが最も有名(寧ろそれ以外はあまり知られていない)という状況だった事を鑑みるとかなり先進的だと言えます。

www.google.co.jp

 

では今回Suchmosに味をしめてこれから来そうな(にしては乗り遅れてるけど)若手アーティストを起用したのかというとそうとも言い切れません。

現在まことしやかに囁かれているのは、ホンダが今回のマイナーチェンジを機にこれまで人気がなかったジェイドという車種の起死回生を図り、その思いをLOSERという曲に託している、という説です。そういう文脈で捉えれば、LOSERの全体としては前向きな歌詞とマッチしていると言えます。

今回のマイナーチェンジでは二列シート+広めのトランクというタイプをメインに据え、ターゲット層も30〜40代の既婚子無しの男女に設定しているとの事です。地に足がついており、「車」が人生において必ずしも高いプライオリティにない層の印象に残るために、流行りの曲を使用しつつ敢えて違和感を残すという手法は確信犯だったのかもしれません。一見要素が多く中途半端な印象のあるCMですが、どういう層がターゲットとなっており、どういう内装・外装、機能があるかは過不足なく伝えられています。一度記憶に残ってしまえば、十分に比較検討の対象に入れてもらえる余地があり、CMとしてはコンバージョン率が高そうです(何がコンバージョンとして設定されているかは知りません。コンバージョンって言いたかっただけ)。

少なくとも、一視聴者がこんな考察記事を書いてしまうくらいにバリバリ印象には残ります。残念ながら、私は全く自動車の購入をする予定が無いので売り上げには貢献できないのですが。

 

 

※1 他に、「CVT」「エコカー減税」などの用語を視聴者に周知させるためにタレントやキャラクターを用いるパターンもありがち

※2 FM802を営業車で聴いている勢

※3 最後の建物が何の施設がよくわからないのですが、初見でホンダのディーラーだと思い込みました。まさか車がlemonだから…ではなくアフターサービス承ります的なサブリミナルかと思いました

※4 MINIというかBMWは元々ブランド力があるので冒険をせずとも普通に格好いいCMを作るというスタンスで問題ないように思います