思念が奔逸中

情報発信の体裁で雑念のみ垂れ流します

自分の機嫌は一番重要だけど他人にとっては一番どうでもいい

というのは極論ですが割とそういう事だと思っていて。

「機嫌が悪くても落ち込んでいてもちゃんとやる」という事とはまた別で、機嫌というものは意識がある状態では常に存在する※1ので、意図的にシャットダウンしないと思考の大部分を占めてしまうという意味合いで一番重要、としています。そして多くの人は、その裏返しで他人にとって自分の機嫌は重要ではない※2と分かっているからこそ、一旦自分の感情を脇に置いて、相手の立場とか気持ちとか、円滑な進行を優先させながら過ごしているのではないでしょうか。※3

感情を脇に置く理由付けは

①今言っても相手が聴く耳を持っていないから

②相手に考慮すべき事情がある(かも知れない)から

③その方が案件が進行するから

④世の中にはもっと大変な人が居たり、考えるべき社会的な問題があるから

といったように沢山あって有り余ります。

 

そういったコミュニケーション上の軋轢とか仕事関係での紛糾などを大人な対応でサラッと交わしたつもりが、いざ事態が好転しそうになるとモヤモヤとした気持ちになることがあります。たとえば

①今は相手も落ち着いているけれど本当は、私に失望している/未だ怒っているのでは?

②そもそもこういう事態になったということは私の事を元々軽んじていたのでは?

③そもそも観点が違う話なのにな

などなど。考えだすとキリがありません。

 

そういう時に今更わだかまりを持つ自分は器が小さいのかな、などと余計に落ち込んだりもしてしまうものですが、それもあまり良い影響がなさそうです。

そこで最近私は【私に対して失礼】という概念を導入することにしています。※4

 

相手の方が優れて自分が劣っている点とか、考慮すべき事情とか諸々は置いておいて、人としてその態度/社会人としてその対応/私とあなたとの関係性でその物言い失礼だよね、とその部分に関しては素直に怒っても良いのではないのでしょうか。

そして「私に対して失礼なんて理由でその場で事を荒立てるのも大人気ないと思ったからそこそこの対応したけど、まあ失礼だよねー」と気心の知れた人に話せればベストです。きっとそこそこの対応をした事を褒めてくれるはず。話す人がいなければ自分で褒めたら良いと思います。※5

 

そうやって話せる人に話せる範囲で発散しながら、少し先の週末の予定とか、本棚、クローゼット、冷蔵庫、WALKMANの中身やSNSのタイムラインを自分の好きなもので満たして行くことで、自分の機嫌を取りながら生きていきたいと思っています。

 

※1 意図的に意識を拡散させたり手放す方法として飲酒がありますが、ほどほどにしておいた方が良いし、体質によっては(精神的にも物理的にも)悪い方向にしか行かない場合もありそうなのでお勧めはしません

※2「皆が気分良く進められるようにすべき(しよう、したいよね)」と言ってくる人の「皆」の中には大抵話しかけられている自分は含まれていなかったりする。「お前が我慢しろ」のパターンもあるけれどナチュラルに「お前が機嫌良かろうが悪かろうがそれは問題外」のパターンもあってそれはそれで虚しい

※3 心からその人の事を尊重したい場合、今はとりあえず優先してあげるねという場合、キーマンの機嫌を押さえると円滑に進むという場合など様々

※4 あまり「失礼」という考え方に馴染めない方は、感情がマイナスな方向に行く時の傾向に合わせて、「私は悲しい」とか「私に物理的な皺寄せが来ている」「理屈が合わない」などを適宜代入して頂ければ良いのではないかと思います

※5 こういう時にちゃんと共感してもらえそうな人選の見極めは大事

 

 

キレの良い効き目という概念

御無沙汰しております。

暑くなったと思ったら急に涼しくなったり、気温の定まらない時期ですが皆様は体調を崩されていませんでしょうか。私はまんまと風邪に罹患しました。

そもそも最初に喉の痛みを感じた時に、エアコンの除湿モードが原因の感想だと勘違いしたせいか初動が遅れたのも敗因です。

風邪をひくと鼻水の症状が劇症化しやすいので、大抵総合感冒薬ではなく鼻炎薬をドラッグストアなどで購入してしのいでいます。しかし昨年はしぶとい風邪を2回も拗らせ、ずるずる悪化の一途を辿り結局病院に行く事になったので今回は早めに病院に行く事にしました。

 

細菌感染はしてなさそうということでカルボシステイン(≒ムコダイン 痰の切れや鼻水の排出を促す)とエピナスチン塩酸塩10g(アレルギー性鼻炎の薬)を処方されたのですが…全然鼻水が止まりません!

調べてみたところ、エピナスチン塩酸塩は市販薬アレジオンに含まれている成分と同じでした。寧ろアレジオンは20gのシリーズもあるようなので大分控えめな処方です。わざわざ時間を費やして病院行ったのに全然納得いかねぇ案件です。

実は数年前に別の病院でアレグラと同じ成分の薬を処方された事もあるのですがこちらも効果がありませんでした。この二つに共通しているのが「第二世代抗ヒスタミン剤」という分類に属しているという点です。第二世代は第一世代に比べ副作用が少なく、市販の花粉症向けの鼻炎薬に良く使われている、という事は聞いた事がありました。

 

もう少し調べてみた結果、第二世代は単に副作用が少なくなった、という単純な話ではなく症状への対処から予防に考え方がシフトしていることが分かりました。花粉が飛散し始める頃かその前から服用を始めるとピーク時に楽に過ごせる、という事のようです。つまり効き目が緩やかなので、風邪のように罹患の時期が予測できず急激に病状が悪化するタイプには不向きという事ですね。

「第二世代は効き目の強さと副作用の強さが比例する訳ではない」というのは第二世代同士の比較の際に成立する話であって第一世代と第二世代を比べるとやはり効き目と副作用は正比例するっぽいです。

 

エピナスチン塩酸塩が効かない為、同じ第二世代でも効き目の強い新薬、ビラノア錠を処方して頂きました。ビラノア錠は空腹時に服用というのが変わっている点ですが、1日一回で済みます。(空腹とは食事の二時間以上後、1時間以上前の事を指しますが、これが本当に空腹という事なのか不安)エピナスチン塩酸塩よりは効果がありましたが、効果の発現まで時間がかかり、次に飲む2〜3時間前にはしんどくなっていました。本来ならかなり効果がある薬のようなので、今回の風邪がかなり強力だったという事でしょうか。

 

という訳で安定のパブロン鼻炎薬を購入致しました。

www.taisho.co.jp

今回第一世代、第二世代等を調べるうちにこのサイトを行き着いたんですが、この「キレの良い効き目」というキャッチが気になっています。効き目についての形容でキレが良いってどういう事?即効性があり確実に効くという事なら「速く良く効く」じゃダメなの?

 

パブロン鼻炎薬についていえば、効果が現れるのが速く、必ずと行って良いほど効いている時間は強い口の渇きを感じます。そして効果が切れると口の渇きも治まります。非常に分かりやすい。効き目は後を引かずスパッと無くなります。有能な仕事ぶりながら定時になったら必ず帰る会社員のようです。これがキレがあるという事なのでしょうか。

 

この口の渇きをもたらし鼻水に効いている成分が「ベラドンナアルカロイド」という成分だと思われます。ベラドンナアルカロイドに関する情報がネット上にあまりなかったので(パブロンのサイトには第一世代の説明が書いてあるけれどそれってどの成分?)、ビラノア錠を処方して頂く際に医者に訊いてみたのですが、薬価がかなり安いために市販薬に入っている成分だと思うがよく分からないとの事でした。そういうものなのでしょうか?

 

ここまで書いたことはあくまで個人の感想なので皆様はちゃんと医者にご相談の上薬を服用して下さいね。あと細菌が入ったら取り敢えず抗生物質を貰うために病院に行った方がいいです。

でも私は取り敢えず、効き目キレッキレで頼もしいパブロン鼻炎薬を常備します。

 

【この記事は個人の感想を述べた随筆です。特定の薬の推奨したり効果を保証したりするものではありません】

 

 

2、3年ごとに通う美容院が変わっている

通う美容院が定まらず毎回新しい店に行く事・人のことを指して「美容院ジプシー」という事があります。私自身には当てはまらない言葉だと思っていましたが、そういえば大した理由もなく2、3年に一回美容院を変えていました。今回は、理由を振り返り今後の美容院での仕上がりの満足度を上げる糧にしたいと思います。(という体裁をとった愚痴です!)

 

①地元の美容院

とりあえず親が行っていた所に通う。そもそも子どもであったが故に希望を上手く伝える術を持たず毎回不満を抱いていた様な気もするがあまり覚えていない。結局雑誌の切り抜きなどを持っていく方法に落ち着いたように思う。

 

②大学時代

大学入学を機に引っ越し転居先に近い店舗を探す。幸いすぐにしっくり来る店が見つかった。染髪やパーマなど髪質に左右される施術で100%納得がいくことは少なかったが、そもそもそれらを制限されない環境となったこと自体が嬉しく不満はあまり無かった。

社会人になり土日しか行けず、それまでの担当美容師とシフトが合わなくなった事を機に通わなくなった。別の担当も特に下手ではなかったがその人についているアシスタントのシャンプーやカラー剤の塗り方が雑だったのも要因か。アシスタントは西野カナ(ヒッピーバンド=スーパーフライの人が頭に付けているやつ、を付けているボヘミアン調時代の西野カナ)に似ていて愛想も良かったがカラー剤を額が狭くなるほどはみ出して塗るのはさすがにナシだった。

 

③社会人になってから(約一年半)

友人から紹介された街中の店に通うように。やはり繁華街にある店はレベルが高く対応可能な施術も多かった。カラーリングが単に明るさだけでなく色調まで選べるようになり、自分の髪質も踏まえた上で詳細なオーダーをするようになった。この頃から既に神経が図太くなっていたため、最初に担当した人と合わなかったら次の予約時は指名しないといった事を平気でするようになった。仕上がりには満足していたが、繁盛店特有の待ち時間の長さにより一回につき3時間以上の滞在がデフォルトなのに不満だったのと、急に祝日の月曜日に髪を切りたくなった際定休日だった事をキッカケに行かなくなった。

 

④それから約3年くらい

上記の祝日の月曜日に営業していた為通う事になった店舗。担当を定めずに数回通ったがホットペッパービューティにカラーリングの魔術師と書いてある人に担当が固定。丁寧にヒアリングをしてくれるし腕も良く本当にカラーリングの魔術師だった(この通り名は自称ではなく勝手に書かれていたそう)。しかし一度思ったよりも髪を梳かれてどうしてもシルエットが気に入らず翌日別の美容室にパーマをかけに行き、それから行かなくなった。

 

⑤それから現在まで(2年半くらい)

気に入らなかったからといって翌日他店でパーマをかけたことが後ろめたく、そうこうしている内にカラーリングの魔術師の指名料が高くなった事から今の店に定着して現在に至る。

 

振り返ってみると、通っていた店自体が全然ダメという訳では無かったはずなのに、ふとした事でフッと行かなくなるパターンになっていますね。

通わなくなる理由としては

・同じ店に通う事よりも、その時のニーズ(絶対この日に行きたい、すぐに直したい)を満たす事が最優先される

・不満があっても同じ店に翌日直してもらいにいくのは気まずい

・代わりに行った店舗もアタリな方の店舗

という事が言えそうです。

こうやって文字に起こすと結構クズというかコミュ障な感じに見えてきますね…。

私の髪型が少し変わったところで他人から見たら同じなのは分かっているのですが、自分が納得いってないと気分が落ちるんですよね。そして社会人になって二日連続美容院にお金を払えるくらいにはなったという事でしょうか。

 

反対にそこそこの期間継続出来た理由としては

・運良くいい店舗、担当に出会えた

これが一番大きいと思いますが

・施術前のヒアリング時は詳細に

自分の髪質や骨格がモデルとは異なる事を加味しながら2〜3パターン近いものを選ぶのと、回避したい方向性を伝えておくと失敗は少ない気がします。特に私は重めのスタイルが好きで軽くされすぎる、切られすぎるなど取り返しがつかなくなるリスクが高いです。それなので、どの程度減らしたいのか、切りたいのかは曖昧な表現ではなく客観的な指標で伝えるようにしています(この写真と同じくらいのボリューム、肩甲骨の所までの長さ、とか)。

・最終確認時で多少の手直しで取り返しがつきそうな場合は遠慮なく直してもらう

さすがにパーマやカラーのやり直しはスケジュールが狂うので言い出せませんが多少のカットやスタイリングでどうにかなるなら…。再現率も大事だけど美容院を出た直後が一番良い状態じゃないというのも嫌だ 笑

結果割と意見をハッキリ言う客というイメージがついて無碍に扱われにくくなっているかも知れません。

 

そして何故今、こんな事を書いているかというと2年半ぶりに別の店に行ってしまったからです。私の中に「セミロング以上の長さの髪は、後ろから見た時に下のラインがまっすぐ(地面と平行)なのがデフォルト」という先入観があります。

一度真ん中が長いラインにされて店では気がつかず、次のタイミングで真っ直ぐにしてもらったのですが(「何故?」「単純にその方が自分の好みだから」という会話をしたはず)、また同じ事をされ、(その時はパーマもしていて言い出し辛く)結局一ヶ月後に他店で直すという事をしました。というかカルテに書いてよ。

 

今回はカットとトリートメントだけで失敗はなかったのですが、一ヶ月前にかけたパーマに対して「若干パーマがかかってますね」といった上でスタイリングせずそのまま帰そうとしたので多分次は行かないと思います。いや、私にとっては若干じゃなくて立派なパーマなんですよ。何故かかってるの分かってて再現しない。何も聞かない。

言ったら普通にやってくれたしそれはそこまで問題でもないのですが、店舗面積の割にスタッフもお客さんも多く忙しない雰囲気でヒアリングの時間もあんまり取れなさそうなのでやはり行かないかな。

 

というわけで今回は店舗変更を回避しました。結局の所いくら失敗しないように言葉を尽くしても、絶対どこかに「言わなくても当然そうなる」という先入観の落とし穴があるという事がわかりました。こういうのは気付く度に伝えていく他ないのかな…と思いました。

 

今回は書いていて性格の悪さを露呈しただけのようになりましたが、皆様のご参考になれば幸いです。何にせよヒアリング大事!

 

今こそドラマ「カラマーゾフの兄弟」を観よう

現在放送中のドラマ「おっさんずラブ」があと残すところ最終回のみとなりました。テーマ設定もさることながら、全7回と短い中毎回怒涛のストーリー展開で視聴者を惹きつけて止まなかった同ドラマ、既に放送終了後のロスに備えて身の振り方をお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私はといえば既に、第6回視聴終了後あまりの展開に落ち着かなくなって「カラマーゾフの兄弟」を見直す作業に入っております!

 

カラマーゾフの兄弟 DVD-BOX

カラマーゾフの兄弟 DVD-BOX

 

 

2013年1月クールに放送された「カラマーゾフの兄弟」はその名の通り、ロシアの文豪ドストエフスキーの同名小説を原案としています。おっさんずラブでは主人公を取り合う部長と後輩社員の間柄を演じている吉田鋼太郎林遣都が、殺された父親とその殺人の容疑者となる三兄弟の三男、という役を演じました。おっさんずラブは果てしなくワチャワチャした展開や、登場人物全員に幸せになってほしいけれどそれが困難な切なさに心が忙しくなりますが、カラマーゾフの有無を言わさぬ重厚感はクールダウンに最適です。そして一旦憎しみの世界を見るとおっさんずラブはマジでラブに溢れています。

 

というわけで、今回はドラマ「カラマーゾフの兄弟」の超個人的に良いと思う所をお伝えしていきたいと思います。

なお、筆者は原作小説を読んでいませんので原作と異なるところは伝聞です。だってドラマ観て満足してしまったし

 

①キャストについて

主要人物のキャストは下記の通りです。括弧書きの名前は原作で該当する人物の名前です。

黒澤 勲 (イヴァン) 黒澤家次男 弁護士- 市原隼人

黒澤 満 (ミーチャ)黒澤家長男 失業中 - 斎藤工

黒澤 涼 (アリョーシャ)黒澤家三男 医大生 - 林遣都

黒澤 文蔵 (フョードル)黒澤家当主 黒澤地所社長 本作品の冒頭で殺害される - 吉田鋼太郎

黒澤 詩織 (ソフィヤ)文蔵の後妻 勲と涼の母 故人- 安藤サクラ

末松 進 (スメルジャコフ)黒澤家の使用人 - 松下洸平

小栗 晃一(グリゴーリイ) 秘書- 渡辺憲吉

遠藤 加奈子 (カーチャ) 満の恋人- 高梨臨

吉岡 久留美(グルーシェンカ) 文蔵の友人 職業愛人- 芳賀優里亜

入江 悟史 文蔵殺害事件を担当する刑事- 滝藤賢一

 

カラマーゾフの兄弟は文蔵が殺害される直近の三兄弟に起きた出来事を描きながら、殺害後の刑事の事情聴取の場面を差し込みつつ展開していきます。

三兄弟それぞれの視点から描かれますが、次男・勲の視点の比重が大きくなっています。※1勲はエリート思考で冷静沈着(どちらかというと冷血)、鬱屈とした性格なのですが、このメインの役にそれまで熱血漢を数多く演じてきた全くイメージの異なる市原隼人を起用したのが画期的です。

また2018年現在では一般にも名が知れ渡った人気実力派俳優の吉田鋼太郎斎藤工滝藤賢一安藤サクラが2013年段階で一堂に会しているのも先進的に感じられます。活動するフィールドの問題であり、それまでに十分キャリアを積んでいる方々ではありますが、舞台やマイナーな邦画に接してきていない私にとって、斎藤、滝藤、安藤氏に関しては最近見る顔だな、というくらいでしたし、吉田氏に至ってはそれまで認識すら出来ていませんでした。このキャストが本当に良い演技をするのです。めちゃくちゃ豪華。

滝藤賢一といえば同年9月クールの「半沢直樹」の近藤さん役で可哀想と話題にグッと知名度を上げた印象がありますが、この作品では三兄弟を執拗に尋問する刑事を演じています。言葉尻を捉えて嫌味ったらしく追求し揺さぶりを掛ける演技は目力も相まって存在感に溢れています。この刑事と三者三様に答える兄弟の駆け引きも見所です。

そしてこの作品で知った吉田鋼太郎シェイクスピア演劇仕込みの声量のある演技は、テレビドラマの中では浮いているように当初は思いましたが、古色蒼然としたお屋敷に、急に観念論を語り出す次男、バーで喋るだけなのに回りくどい台詞を放つ長男、といった少々現実離れした世界観の中で確かに核となっていました。

 

②名前の翻案について

カラマーゾフ」というのは舞台となる一家の名字ですが、ロシア語で「黒塗りの」という意味だそうです。それに合わせてドラマ版の一家の名前は「黒澤」※2 となっています。また一家が牛耳っている地方都市の名前は「烏目町」。ドラマの暗くケレン味のある印象と統一しつつ、カラマーゾフ という語感と揃えてきているところがにくいですね。

それ以外の登場人物の名前は、頭文字が共通していたり、子音や母音の配置によって似た語感になるように翻案されています。特に秀逸なのが満・勲・涼の三兄弟の名前。兄弟らしく漢字一文字縛りで翻案しただけでなく、それぞれの性格ともマッチしています。三男のアリョーシャは頭文字や性格を考慮に入れると明や篤でも良かったのかもしれませんが、敢えて真ん中のリョーを採ったところにセンスを感じます。響きが現代っ子ぽくて林遣都の涼やかな見た目に合ってて良い 本名遣都だけど

反対に久留美だけは音の響きから小動物っぽい可愛さがあって役と合致していない印象を持ちました。

 

③個人的に世界観が好き過ぎる

先にも述べたように、このドラマは色は黒を基調とし、時代がかった重厚でダークな世界観になっています。舞台となる都市の名前が烏目町というのもあり烏の映像をバックにタイトルロゴが現れます。

テーマソングはローリング・ストーンズの「Paint It,Black」、邦題「黒く塗れ!」です。これまた意味合いを被せてきたのですが、古典名作にロック、合わないと思いきやあのダウナーで淡々としたダークなイントロと歌唱がめちゃくちゃ相乗効果を発揮します。このテーマソングを皮切りに、NirvanaRadioheadThe White Stripesなどの洋楽ロックを聴いてきた特定の層に照準を狙い定めたサウンドトラックになっています。※3

黒澤家のお屋敷の外観として鎌倉文学館が採用されているのも個人的にはポイントが高いです。三島由紀夫の「春の雪」に出てくるお屋敷のモデルにもなった建物です。

 

④まとめ

上記のように「カラマーゾフの兄弟」の良いと思う所を列挙させて頂きましたが、結局「めっちゃ私の好きなツボ押さえてくるー」という事が言いたかっただけですね。なんというか一つ一つの演出※4 がとてもクールに見えます。世界観に嵌り過ぎたが故に、吉田鋼太郎の存在を記憶に刻みつつ、特定の役者のファンにはなりませんでした。役者よりも役柄が上回ったのでしょうか。誰に共感するとかいうタイプのドラマではありませんが、実の所三男の涼君は良い子過ぎてイマイチピンと来ませんでした。が、おっさんずラブの牧君を観てから林遣都氏良いやん、となっております。

支離滅裂になってきましたが、おっさんずラブカラマーゾフの兄弟、両方みたらパラレルワールドみたいになってどちらの世界線も救われて見える気がする、というお話でした。

 

※0 この記事では敬称を省略させて頂いております

※1 次男・勲は「汚れた血族」という小説(兄・満曰く「キモい小説」)を書いており、折に触れて小説を執筆する場面が挿入されます。蓄積した憎しみや葛藤を感じさせるドラマティックな演出ですが、確かにキモいというか厨二がかった単語が散見され小説として読むには面白くなさそうです

※2 奇しくも「おっさんずラブ」にて吉田鋼太郎が演じているのは「黒澤」部長。ちなみに林遣都が演じているのは「牧凌太」。容姿から来る印象に一致しやすい名前というのがあるのか

※3仮にこの曲達を知らなかったとしても選曲の格好良さは伝わるはず、と思っています。知っているからこそのバイアスはありますが、BGMというよりかなり印象に残るドラスティックな流し方です

※4 モノクロの映像から誰かが転換となる一言を言った時点でカラーに切り替わるの最高

 

ホンダ車「ジェイド」と米津玄師「LOSER」タイアップの違和感は確信犯か

 


JADE「NEW STYLE WGN」篇 30秒

先日から、米津玄師の「LOSER」がタイアップ曲となったホンダのジェイドという車種のCMが流れています。

車が必ずしも勝ち組の象徴ではなくなって久しいと言えど、敢えて負け犬を意味するLOSERという曲が起用されるという現象に世の中の風潮は分からんわ、という気持ちになりました。曲調には疾走感があるとか、曲全体ではポジティヴなメッセージを発信しているという問題では無いのです。ハッキリと「アイムアルーザー」とキラーワードが聞こえ、LOSERとクレジットされる事のインパクトの問題です。(とはいえlemon=ポンコツ車は流石にアウトだろうな…)

 

こんな記事を書いていきますが、決してホンダを敵対視している訳ではありませんし、寧ろLOSERという曲は好きです。米津玄師氏の曲の中では爱丽丝 の次に好きかも知れません。

 

爱丽丝 については下記の記事をご参照下さいませ。

malily7.hatenablog.com

 

そもそもタイアップ曲の歌詞やタイトル以前にこのCM、全体として違和感しか作用しない作り方をしているように感じます。正直私は車に興味が無いので的外れな分析になるかも知れませんが、マス媒体でCMを流すという事は購入を検討すらしていない層の関心をも惹くのが目的のはず、と開き直って己の感覚を信じていってみます!

 

車のCMというと主に二つの典型的な型※1が想起されます。

①メリット列挙型

「バックモニター付き」「三列シート」など具体的な特長を丁寧に映像化・言語化して伝えるタイプのCM。走る事そのものやステイタス感よりも、安全性や利便性を重視するファミリー層や女性がターゲットの車種に多い。ターゲット層と同一化しやすい出演者を顔が見える形で出し、親しみやすい印象になりやすい。

タントのCMが象徴的


TVCM タント 「高級レストラン」篇(15秒) ダイハツ公式

 

②イメージ訴求型

走る姿を俯瞰で撮影した映像を用い、疾走感やクラス感などの購入対象層が好ましいと思うイメージを訴求。

米津玄師氏のリスナー層と被りそうなアーティスト※2 の曲を起用したこのタイプの例

MINIのCM  

[ALEXANDROS] I Don't Believe In You


MINI Hatch F55/56 15s TVCM

 

疾走感と小回りの良さを端的に訴求。[ALEXANDROS]の都会的なイメージともマッチしています。曲は英詞なので[ALEXANDROS]を知らない視聴者からすれば格好いい洋楽扱いで認識されそうです。実際のところは分かりませんが、洋楽に高い使用料を使うのなら楽曲として同じクオリティで同じ効果が得られる国内のアーティストを起用した方が良いし更に拡散力も期待出来そうです。

 

この②をベースに①のターゲット層の自己投影を促す手法をとったのがこちら。

ダイハツ トールのCM

レキシ KATOKU


レキシ〖池田貴史〗トール ダイハツCM 「成長記念日 納車」篇 15秒 Rekishi Takafumi Ikeda DAIHATSU Thor

 

イメージ的な訴求でありながら購入対象層がシチュエーションを想定、共感しやすい作りになっています。家族向けの商品に合わせ家督をテーマに書き下ろした曲、かつレキシ氏も出演という音楽ナタリーとかを読む層にはニュースバリューのあるCMでもあります。

 

ここでジェイドのCMの要素を振り返ってみます

⑴自宅風の小綺麗な建物から出発、荷物を積むシーンでトランクの広さを示唆

⑵出演者は30代くらいの男女、男性は欧米系、女性は東アジア的な容姿(もしかしたらハーフかも)ですがあまり顔が見えず女性の方を辛うじて認識できる程度

⑶街中からトンネルを抜けて自然溢れる道路へ。全体的に外国風の風景

⑷黄昏時に自宅とは別の建物へ到着。降車して歩く後ろ姿 ※3

 

これらを踏まえると違和感の正体としては下記のことが言えそうです。

▪️⑴の尺が長めで説明的な所作だったため第一印象が①のメリット列挙型であったのに、車が走り出したら⑶の時点で②のイメージ訴求型に切り替わった点

トールの場合は②に①でよく使われる「手法」を取り入れましたが、ジェイドは場面展開で①と②の両方を取り入れたため視覚的な違和感が生まれたように思います。

▪️CMとして②を基調としている割には、登場する男女へフォーカスする部分が多い点

MINIのCMで一瞬顔が映る欧米系の運転者に自己投影する視聴者はほぼいないと思われますが、ジェイドの場合は絶妙にターゲット層を意識しているようなしていないようなキャストを起用、CMで描かれるシチュエーションと自分達の生活を重ね合わせられるような演出も含まれています。

▪️映像の雰囲気と曲調が合っていない

⑶の特にトンネルを抜けてからは明らかに海外を思わせる風景となっていますが、それに対し米津玄師氏の発語のキレがいい日本語の歌唱が合わさるため何となく噛み合わない印象に。

また個人的には、LOSERの曲調であればもう少しスカッと晴れ渡った青空の下か都会的な夜の方が合うように思います。というか地下鉄が一番似合う。CMでは曲調に対して、特に⑶から⑷にかけてクラス感寄りで絵面がしっとりし過ぎているように思われます。

 

色々述べて来ましたが、ではホンダは何も考えずにこのCMを作ったのか、というとそうではないはずです。元々ホンダのCMは音楽のセンスが良いとされていました。記憶に新しいところでは2016年秋にヴェゼルという車種のCMでSuchmosの「STAY TUNE」が起用された事でしょうか。

bunshun.jp

前述したMINIのCMは2017年秋からの放送でしたが、2015年以降[ALEXANDROS]は複数社のCMタイアップ実績がありますから特別意外性のある起用ではありません。※4

それに対してSuchmosが2016年に頭角を現し当該のSTAY TUNEが最も有名(寧ろそれ以外はあまり知られていない)という状況だった事を鑑みるとかなり先進的だと言えます。

www.google.co.jp

 

では今回Suchmosに味をしめてこれから来そうな(にしては乗り遅れてるけど)若手アーティストを起用したのかというとそうとも言い切れません。

現在まことしやかに囁かれているのは、ホンダが今回のマイナーチェンジを機にこれまで人気がなかったジェイドという車種の起死回生を図り、その思いをLOSERという曲に託している、という説です。そういう文脈で捉えれば、LOSERの全体としては前向きな歌詞とマッチしていると言えます。

今回のマイナーチェンジでは二列シート+広めのトランクというタイプをメインに据え、ターゲット層も30〜40代の既婚子無しの男女に設定しているとの事です。地に足がついており、「車」が人生において必ずしも高いプライオリティにない層の印象に残るために、流行りの曲を使用しつつ敢えて違和感を残すという手法は確信犯だったのかもしれません。一見要素が多く中途半端な印象のあるCMですが、どういう層がターゲットとなっており、どういう内装・外装、機能があるかは過不足なく伝えられています。一度記憶に残ってしまえば、十分に比較検討の対象に入れてもらえる余地があり、CMとしてはコンバージョン率が高そうです(何がコンバージョンとして設定されているかは知りません。コンバージョンって言いたかっただけ)。

少なくとも、一視聴者がこんな考察記事を書いてしまうくらいにバリバリ印象には残ります。残念ながら、私は全く自動車の購入をする予定が無いので売り上げには貢献できないのですが。

 

 

※1 他に、「CVT」「エコカー減税」などの用語を視聴者に周知させるためにタレントやキャラクターを用いるパターンもありがち

※2 FM802を営業車で聴いている勢

※3 最後の建物が何の施設がよくわからないのですが、初見でホンダのディーラーだと思い込みました。まさか車がlemonだから…ではなくアフターサービス承ります的なサブリミナルかと思いました

※4 MINIというかBMWは元々ブランド力があるので冒険をせずとも普通に格好いいCMを作るというスタンスで問題ないように思います

 

「凪のお暇」を読んで真似をしてみた事

最近ネット広告や色々な方のレビューなどで「凪のお暇」という漫画を良く目にするので、気になって遂に読んで見ました。

 

凪のお暇 1 (A.L.C.DX)

凪のお暇 1 (A.L.C.DX)

 

 

 

ざっくり粗筋を述べますと「色々空気を読みすぎてしんどい思いをしている28歳のOL凪が、過呼吸で倒れた事をキッカケに全ての繋がりを捨てて退職!ボロアパートに移り住んでからの新しい人々との出会いや発見を描く作品」です。めちゃくちゃ粗すぎて語弊がありそう!

 

読む前の印象だと、日常の小さな幸せや、主人公の会社員時代の価値観からの解放や成長、を中心にほのぼのとしたタッチで描かれるのかと思っていました。勿論そういった場面もありますが、意外とリアルで人間のエグい部分が描かれています。人間関係なり社会なりの闇部分、かなり網羅されている気がする。※1

登場するキャラクターはだいぶ極端に描かれています。「あー、こういう人居るよね」を極限まで煮詰めた、ステレオタイプを狙ったイメージです。どのキャラクターも極端であるが故に、それぞれ部分的に共感出来る場面※2 があったとしても肩入れし過ぎず客観的にストーリーを楽しめ、しんどくならず気楽に読める所もメリットだと思います。

主人公の凪ちゃんは優しくて意外と器が大きくて、読者としては応援したくなりますが、かなり気弱で流されやすいタイプ※3 です。もし実際に自分の周りにいたらイライラしていたかも知れません。(節約が趣味でカイワレを育てている凪ちゃんと、2回目のカイワレを食べるための育てる手間や時間を、新しいカイワレを買う60円で買うたるわと思う私は相容れない)

 

というわけで、当初得られると予想していた癒し効果やポジティブになれる作用はそこまで無かったのですが、人に対する洞察が興味深いしストーリーがめちゃくちゃ気になる漫画です。

 

さて表題の件ですが、客観的に読んでいる筆者でも心奪われるコマがございました。

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めちゃくちゃ美味しそうじゃないですか!?ウィスキーとチョコミント、好きなものの組み合わせ。凪ちゃんとは飲めるチョコミン党として相容れられそうです。※4

という事で作ってみました。ハイボールのチョコミントアイス乗せ。

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炭酸のシュワッとした喉越しとミントのスッとした爽やかな味わいがマッチします。ウィスキーの滋味がアイスの甘さで引き立ちます。これは美味しい!これはおススメです。ウィスキーが苦手な人でもこれは試す価値があるかも知れません。フロートがめちゃくちゃ好きな訳では無いのでこの食べ合わせで別々の食器に入れて楽しむのが一番良いかも。

 

こういったアルコールのレシピはほとんど出てきませんが、DIYや生活の知恵的なものは結構学べそうな漫画です。皆様も機会があればご一読いかがでしょうか。

 

※1 本筋と関係ないけれど、主人公が勤務していた会社、端的に嫌な感じの会社では?全体的に人が嫌な感じというか民度が低いというか。普通過呼吸で倒れた人を称して無様な犬みたいとか冗談でも言わない。

※2 たとえば凪の会社の中で割りに合わない立場への不満や、空気を読みすぎて読みきれないみたいなしんどさは共感も出来るし、対照的に描かれる足立さんのある種の自我の強さを持て余してしまう感も分かります。個人的には中間くらいの立ち位置で我慢すべき時と自分に利する様にポジション取りする時のバランスを取れれば良いと思うのですが、段階的にくるギリギリのラインで凪が退職を選べたのは良かった事なのかも知れません。

※3 蒸し返すようで悪いけれど、炎上した午後ティーのイラスト広告に最後に出てくる(こんな子居ないって言われていた)ストレートティー役の子、女子大生風に描かれててアスレジャー風味の服だから分かりづらいけれどまんま凪だと思いました。

※4 このコマに出てくる髪の毛クルクルの子、凪ちゃんですよ。冒頭に載せた表紙のコンサバなサラサラストレートの子と同一人物ですが、髪型によって服装も表情も登場する場所も異なるのでどうしても別人格のように見えてしまいます。

 

機内で観る「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」

先日のタイ旅行の際、往路は昼間に飛行機に乗ったので機内で映画を鑑賞しました。

有名どころの「グレイテスト・ショーマン」や「シェイプ・オブ・ウォーター」も気になりましたがそんな話題作をスルーして観たのが、邦題「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」です。

www.churchill-movie.jp

選んだ理由としては単純に主演のゲイリー・オールドマンが好きなのと、アカデミー賞で日本出身の辻一弘氏がメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞されたので気になったというのと、元々政治劇は好きな方だった、というあたりです。

これから旅をするんだから機内くらいお気楽で明るい作品を見れば良いじゃん、という気もするのですが、無駄にテンションを上げなくて良い点、あの小さい画面でみても損な感じがしない点、そしてアカデミー賞で話題になった割に実際の上映情報が出て来ずここで観なければ見逃す感(多分地上波にも流れなさそうだし)も相まって常にスーツのおじさん達で黒々とした画面を眺める事にしました。

 

以下、感想をまとめます。あんまり集中して観る環境ではなかったので雑感程度となります。

 

ゲイリー・オールドマンチャーチルそのもの

チャーチルについて詳しい訳ではないけれど、教科書などに載っているあのチャーチルの写真生き写しでした。特殊メイクの技術は凄い。目元の辺りとかはよく見るとゲイリーの要素というか面影が残っているのですが、「ゲイリーが特殊メイクでチャーチルに寄せた」ではなくナチュラルにこういうおじさん居るよねレベルの自然さでした。

それにしても、こういう事を言うと元も子もないのですが、何故チャーチルとは元の外見が似ても似つかないゲイリーをキャスティングしたのでしょうか。年齢の違いはともかく、体型も顔立ちも元から似ている俳優はいそうなものですが、やはりキャリアと実力、英国人という文化的背景から適任だったのでしょうか。確かに演技は素晴らしくて引き込まれました。安定のゲイリー。日本語字幕がなく吹替で鑑賞したので声が聞けなかったのが残念でした。

 

②演出とかストーリーあれこれ

映像としては全体的に黒々としたトーンの中で、チャーチル宅のシーンになると柔らかな日差しが入ってきて明るく穏やかな印象になります。こういった英国の建築物の明と暗の両方を美しく効果的に魅せるのはさすがジョー・ライト監督(「プライドと偏見」、「つぐない」で顕著)だなと思います。

観るとは思ってなかったので、戦況に関しては予備知識ゼロでした(この辺りの局地的な戦況って学校で学びましたっけ?教養が欲しい)。この作品は新人秘書のエリザベス・レイトンの目線で描かれる場面も多いので、与えられる情報の少なさから来る不安感(不謹慎ですが有り体に言うと、この映画のストーリーこれからどうなる?という手に汗握る感)が割と同一化された状態で見れます。出番の多い役ですが、比較的癖のない好感の持てるキャラクターだったのと、個人的に演じるリリー・ジェームズが好きな感じの見た目だったのが良かったです。

作中の日にちが変わると画面に大きく日付が表示される演出があり、切迫した状況の中で物事が決められていったという事が体感的に分かるようになっています。

邦題が邦題なので、ハッピーエンドというか希望の持てるような結末になる事は予想をしていました。しかし政治家がチマチマ密室で会議をするという地味な絵面でどのように大団円に持っていくのかと思っていたのですが、思いの外熱いラストでした。(邦題で明言する是非は置いておいて)チャーチルの行動の何を以て世界を救う、という事にするのかが明確に表現されていたと思います。

 

③しかしこれをうっかり鵜呑みにしてはいけない気もする

こういう健全なナショナリズム(パトリオティズムって言った方が聞こえが良さそうだけどこの場合はナショナリズムよね?)風味の話、おそらく私が好きなタイプの話で簡単に感動してしまいます。戦争も軍事関連コンテンツも好きではないのですが、「国」という枠組みが素朴に存在していた時代の経済や政治分野での「国」を底上げする為、一廉の国と認められる為のパワーや矜恃といった文脈が刺さるのだと思います。且つそこに人権意識やら倫理観を絡められると、更に感動の正当化が凄い事になりそうです。

でもなんとなくそのまま思考停止してチャーチル礼賛して終わるのも引っかかったので、帰国後簡単にネットで調べてみました。映画の中でもチャーチルは強硬な姿勢を見せていますが、立場や戦略上冷静というのを越えて「戦争屋」という印象を受けました。実際に史実としても派手な戦略好きであったようです。また一番感動を呼びそうな終盤手前の(フラットで人権っぽい)エピソードがあまり現実的じゃないなと思っていたのですがその部分のみ脚色されていたらしいですね。第二次世界大戦を題材にした一般向けの映像作品では、ヒトラーについては(序盤に少し歴史的資料のような本人映像を流して)悪の概念のような描き方しか出来ないのだとは思いますが、それに対してのチャーチルを単純に善の象徴と位置付けられてしまうのは宜しくないなあという気分です。

おそらく英国や欧米の人の中には「チャーチル=気難しい嫌われ者のじいさん」という共通認識があろうか思うので、大戦中の功績を縦軸に据えつつも、そのじいさんの家庭人としての側面や意外とお茶目な部分などの人間味という切り口が有効なのだと推察します。が、私のように顔と最低限の史実しか知らない浅学なタイプの視聴者にはそのギャップ感が伝わりづらい。元々知らなかったので全体として新鮮ではあり、また1人の政治家として興味を惹かれましたが。

 

題材が戦争なので、恐らく複雑な思いを持つ方はいらっしゃると思いますが、一つの映画作品としては丁寧に作られた良作だと思いました。